サブスクで楽しもう
インターネットを通じて音楽や映像のコンテンツを楽しむことができるよう,サブスクリプション(定額聞き放題・見放題の契約)による配信サービスが増えている。時代の変化に応じたコンテンツの流通について考える。
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教師・児童(生徒)の発問・発言例
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広告収入などで儲けながら,映画会社とか漫画や音楽の作者に無断で配信している業者が捕まったんだよね。
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最近はサブスク料金で映画が見放題のサービスが増えてきたから,そういうサイトなら安心じゃないかな。
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テレビ番組の見逃し配信はタダで見られるのに,サブスク料金ももったいないよ。
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オンラインゲームも増えてきて,有料だけでなく無料のものもあるね。
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作者の許可を得て映画や音楽を配信してるっていうけど,月額いくらとか年額いくらで見放題・聞き放題ということになると,どうやって作者に還元されるのかな。
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思考を深めるためのヒント(アドバイス)
コンテンツ配信のビジネスモデルについて調べてみる。
- 番組の制作にはどのようなコストが必要か。
- 地上波のテレビ放送のための番組制作は誰がコストを負担しているか。
- 衛星放送のための番組制作は誰がコストを負担しているか(BSとCSとでどう違うか)。
- インターネットを通じた配信のための番組制作は誰がコストを負担しているか。
討論などによって気づかせたいポイント
ネットワーク技術やデジタル技術の発展によってインターネットを通じたコンテンツ流通の可能性が広がり,当初,情報通信環境が多メディア化,多チャンネル化した。しかし,新しい番組作りにはコストがかかるという事情や,昭和30~40年代はビデオテープが高価だったため番組が保存されていなかったという事情から,番組コンテンツが不足していた。これに加えて,番組制作者と出演者との間に新しい時代に対応できる契約がなかったため,テレビ番組をインターネット環境に供給することが容易ではなかった。
その後,法制度の整備も行われたが,何よりも番組制作に関わる人々の間でそれぞれの寄与に応じた利益が還元できる仕組みが構築された結果,テレビ番組の見逃し配信・追っかけ配信のほか,過去番組もサブスク料金によって視聴できるようになった。
技術の発達によって新しい環境が開けた場合,それを消費者の利益を含めて有効に活用するためには,関係者が相互に信頼しながらWin‐Winになるような話し合いをしていくことが重要だと気づくことができる事例である。
その背景や根底には,人が創作したものに「ただ乗り」することは社会正義に反するという考え方がある。
先生のためのメモ(著作権の視点)
テレビ番組などの動画配信や音楽配信については,配信事業者と番組制作者・その他の著作権者・出演者等との間で公正に利益を共有・分配する仕組みを構築した結果,インターネットの特性を生かして契約視聴者がいつでもどこでも多様な番組を視聴できるようになりました。
視聴者が負担する料金についても,放送直後の見逃し配信については無料で見られるようにするなど,一定の条件下で無料で受信できる便宜も図っています。
一方,関係する著作権者の許諾を得ずに映画,コミック,音楽,ゲームなどの配信を行い,広告収入などで利益を上げる業者もありますが,そのような事業を行うことはもちろん,そのような事業により提供されるコンテンツに(タダだからといって)アクセスすることも違法行為に加担しているに等しい行為です。
時代の変化とともに著作物を享受する方法も変化していきますが,いかに便利になったとしても,著作物の無形の価値がなくなるわけではありません(見ようとか,聞こうとかする以上,その作品に価値を認めているわけで,価値がないのであれば,そもそも入手しようとは思わないはずです)。
自分自身も著作物を創作し,著作者になり得るのですから,他の著作物や著作者への敬意を常に考えられるよう指導することが期待されます。
先生のためのメモ(著作権の視点)(共通編)
作品を「利用する」とは,著作権制度では の行為をすることを指します。
これらの行為をする場合には,原則として作者の許諾を得る必要があります。
著作権者本人と簡単に連絡がとれない場合,
①出版社などそのコンテンツを提供している会社に手紙を書いたり電話をかけたりして,その作品を利用したいという希望を伝えてもらう
②その作品の分野(漫画,写真,音楽,文芸作品など)ごとの作家団体に連絡する(その団体が作家に代わって許諾してくれる場合もある。
③Webサイトを通じて提供されているコンテンツの中には,「一定条件を満たす場合には,了解を得るための連絡をすることなく利用しても構わない」という意思で提供されているものがあるので,それぞれのWebサイトの利用規定などを調べる
④SNSを利用している作者であれば,ダイレクトメッセージなどでコンタクトをとってみる
などの方法があります。
著作物の利用について許諾を得るために作者(著作権者)と個別に交渉する際には,以下のような点をあらかじめ考えておきましょう。
- 利用したい行為(複製,演奏,公衆送信など)は何なのか(「あれもしたい,これもしたい」と幅広い希望を出すと,作者の立場では一般的には簡単に許諾したくないと考えるのは自然です。いろいろな利用が想定されているのであれば「あれもしたい,これもしたい」という希望を提示してもよいでしょうが,「どこまで利用するかは分からないけれど,とりあえず」という状況であれば,利用方法を限定して許諾を求める方が,許諾を得やすいでしょう。)
- デジタル媒体で利用するのか,アナログ媒体で利用するのか(作者の立場から考えると,許諾した場合,他の目的への転用,反復的な利用などが心配になります。他の転用がしにくい利用であれば,心情的に許諾しやすくなります。)
- 利用する著作物を提供・提示する範囲はどこまでか(学校の教育活動も地域社会と連携して進められる場面が増えており,地域社会に向けた情報発信も奨励されています。作者の立場で考えると,その著作物が無制限に(世界中に向けて)発信されるのか,学校内の閉じられた範囲に向けて発信されるのかには大きな違いがあり,許諾しやすいかしにくいかに影響する場合もあります。)
- 許諾の対価(使用料)はどの程度払えるのか(著作物の利用許諾に係る契約は「私契約」なので,その条件は当事者が交渉して決めることになります。)
作者の気持ちは様々なので「了解を得る方法」を法律などで限定的に定めることは困難です。技術の進歩や経済のグローバル化などの社会の変化に応じて関係者が話し合うことを通じ,著作者の権利を尊重しつつ,より円滑に利用できる(簡便に了解が得られる)方法を開発していくことが大切です。
例外規定(権利制限規定)が適用できない場合,著作物の種類によっては著作権の集中管理が進んでいるものもあるため,著作権等管理事業者に連絡することにより事務的な手続きにより許諾が得られる場合もあります。
著作権等管理事業者は,著作権等管理事業法の規定により,著作物を利用しようとする者に対して応諾義務を負っていますので,利用を拒むことはできません(通常,使用料規程に定められた額の使用料を支払うことが必要です)。
著作権(複製権,上演権・演奏権,公衆送信権などの財産権)については,権利が存続する期間(保護期間)が定められています。
著作権が存続している著作物を利用するために著作権者から許諾を得ようとしたにもかかわらず,著作権者の所在が不明で連絡が取れず,許諾が得られない場合には,文化庁長官の裁定を受けてその著作物を利用することができます。その仕組みをまとめると のとおりです。
教育活動の過程では,日本人が創作した著作物だけでなく,外国人が創作した著作物を利用する場合もあります。著作権に関する国際条約により,外国人の著作物であっても自国民の著作物と同様の条件で保護することになっており,それらの国際条約には多くの国々が加盟していますので,私たちが目にすることができる外国人の著作物のほとんどについて,日本国内で利用する際には日本人と同様の権利が認められることになります。