身近な公衆送信(SNS)

身近な公衆送信(SNS)
この事例のねらい

スマートフォンやパソコンでSNSを用いた情報発信をする児童生徒も増えている。SNSの発信にはどのような効果や影響があるのか(その影響についてどのような責任を負うのか)について考える。

身近な公衆送信(SNS)
  • 教師・児童(生徒)の発問・発言例
    • 学生

      そのアーティストのオフィシャルサイトを見る人が少なくならないかな。

    • 学生

      オフィシャルサイトへのリンクを張ってるから,困ってないと思うよ。

    • 学生

      そんな「推し活」サイトが増えると情報が混乱しないかな。

思考を深めるためのヒント(アドバイス)

SNSの便利な点について考えさせる。

  • 自分の意見や自分の作品を自力で(出版社・新聞社・レコード会社・放送局などの手を借りずに)発信できる。
  • 世界中に向けて情報を発信できる。
  • デジタル情報として高品質なコンテンツを発信できる。
  • デジタル情報なので,複製や加工が容易である。
  • 双方向で他者とコミュニケ―ションを図ることができる。
  • プラットフォームによっては,スーパーチャット(投げ銭)やアフィリエイト広告収入によって収益を上げることもできる。

討論などによって気づかせたいポイント

上記の利点が,もし他者の作品について応用されるとどうなるかについて考えさせたい。

  • アーティスト自身が公式サイトで配信している音楽を,それをコピーなどして他者が自己のSNSを通じて配信したら…。
  • コミック雑誌に掲載されている漫画を,他者がスキャンしてSNSにアップロードし,誰でも閲覧できるようにしたら…。
  • TVで放送されたドラマやアニメ,DVD化された映画などを,他者が録画し,SNSにアップロードして誰でも閲覧できるようにしたら…。
  • これらのもともとのコンテンツは誰が何のためにどのような方法で流通させているのか(ビジネスモデル)。
  • アーティストによっては,自らの作品を「拡散希望」と奨励している場合もなくはないが,それはどのような事情か(すべての人に同様の考え方が適用できるのか)。

先生のためのメモ(著作権の視点)

音楽,文章,イラスト,写真,動画などをSNSにアップロード(公衆送信)する場合には,原則として著作権者から公衆送信の許諾を得ることが必要です。

著作権者の許諾を得る必要がない例外規定の中には「私的利用のための複製」などの規定がありますが,この事例のようにSNSを使って公衆送信することは,「私的使用」ではありませんし,「複製」でもありません。したがって,例外規定は適用されず,著作権者の許諾が必要になります。

個人アカウントのSNSが営利を目的としたものではないとしても,また,好きなアーティストを応援するためのものだとしても,著作権者に無断で公衆送信できるわけではありません。

著作物をSNSなどにアップロードする場合,本来,著作権者から許諾を得なければならないのはSNSのユーザー(アップロードする人)ですが,音楽の著作物については,一部のSNS運営事業者がSNSユーザーに代わって著作物使用料を支払い公衆送信の許諾を得ています。そのため,自分で演奏したものであればさほど意識することなくSNSにアップロードできますが,SNS運営事業者は実演家やレコード製作者の権利(送信可能化権)までSNSユーザーに代わって許諾を得ているわけではありませんので,CDなどの音源をアップロードする場合には,アップロードする者自身が実演家やレコード製作者から許諾を得なければならないことに注意が必要です。

先生のためのメモ(著作権の視点)(共通編)

作品を「利用する」とは,著作権制度では の行為をすることを指します。

これらの行為をする場合には,原則として作者の許諾を得る必要があります。

著作権者本人と簡単に連絡がとれない場合,
①出版社などそのコンテンツを提供している会社に手紙を書いたり電話をかけたりして,その作品を利用したいという希望を伝えてもらう
②その作品の分野(漫画,写真,音楽,文芸作品など)ごとの作家団体に連絡する(その団体が作家に代わって許諾してくれる場合もある。
③Webサイトを通じて提供されているコンテンツの中には,「一定条件を満たす場合には,了解を得るための連絡をすることなく利用しても構わない」という意思で提供されているものがあるので,それぞれのWebサイトの利用規定などを調べる
④SNSを利用している作者であれば,ダイレクトメッセージなどでコンタクトをとってみる
などの方法があります。

著作物の利用について許諾を得るために作者(著作権者)と個別に交渉する際には,以下のような点をあらかじめ考えておきましょう。

  • 利用したい行為(複製,演奏,公衆送信など)は何なのか(「あれもしたい,これもしたい」と幅広い希望を出すと,作者の立場では一般的には簡単に許諾したくないと考えるのは自然です。いろいろな利用が想定されているのであれば「あれもしたい,これもしたい」という希望を提示してもよいでしょうが,「どこまで利用するかは分からないけれど,とりあえず」という状況であれば,利用方法を限定して許諾を求める方が,許諾を得やすいでしょう。)
  • デジタル媒体で利用するのか,アナログ媒体で利用するのか(作者の立場から考えると,許諾した場合,他の目的への転用,反復的な利用などが心配になります。他の転用がしにくい利用であれば,心情的に許諾しやすくなります。)
  • 利用する著作物を提供・提示する範囲はどこまでか(学校の教育活動も地域社会と連携して進められる場面が増えており,地域社会に向けた情報発信も奨励されています。作者の立場で考えると,その著作物が無制限に(世界中に向けて)発信されるのか,学校内の閉じられた範囲に向けて発信されるのかには大きな違いがあり,許諾しやすいかしにくいかに影響する場合もあります。)
  • 許諾の対価(使用料)はどの程度払えるのか(著作物の利用許諾に係る契約は「私契約」なので,その条件は当事者が交渉して決めることになります。)

作者の気持ちは様々なので「了解を得る方法」を法律などで限定的に定めることは困難です。技術の進歩や経済のグローバル化などの社会の変化に応じて関係者が話し合うことを通じ,著作者の権利を尊重しつつ,より円滑に利用できる(簡便に了解が得られる)方法を開発していくことが大切です。

例外規定(権利制限規定)が適用できない場合,著作物の種類によっては著作権の集中管理が進んでいるものもあるため,著作権等管理事業者に連絡することにより事務的な手続きにより許諾が得られる場合もあります。
著作権等管理事業者は,著作権等管理事業法の規定により,著作物を利用しようとする者に対して応諾義務を負っていますので,利用を拒むことはできません(通常,使用料規程に定められた額の使用料を支払うことが必要です)。

著作権(複製権,上演権・演奏権,公衆送信権などの財産権)については,権利が存続する期間(保護期間)が定められています。

著作権が存続している著作物を利用するために著作権者から許諾を得ようとしたにもかかわらず,著作権者の所在が不明で連絡が取れず,許諾が得られない場合には,文化庁長官の裁定を受けてその著作物を利用することができます。その仕組みをまとめると のとおりです。

例外規定のいろいろ (該当条文は2024年時点のもの)
私的使用のための複製 第30条
付随対象著作物の利用 第30条の2
検討の過程における利用 第30条の3
著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用 第30条の4
図書館等における複製等 第31条
引用 第32条
教科用図書等への掲載 第33条
教科用図書代替教材への掲載等 第33条の2
教科用拡大図書等の作成のための複製等 第33条の3
学校教育番組の放送等 第34条
学校その他の教育機関における複製等 第35条
試験問題としての複製等 第36条
視覚障害者等のための複製等 第37条
聴覚障害者等のための複製等 第37条の2
営利を目的としない上演等 第38条
時事問題に関する論説の転載等 第39条
公開の演説等の利用 第40条
時事の事件の報道のための利用 第41条
裁判手続等における複製等 第41条の2
立法又は行政の目的のための内部資料としての複製等 第42条
審査等の手続における複製等 第42条の2
行政機関情報公開法等による開示のための利用 第42条の3
公文書管理法等による保存等のための利用 第42条の4
国立国会図書館法によるインターネット資料及びオンライン資料の収集のための複製 第43条
放送事業者等による一時的固定 第44条
美術の著作物等の原作品の所有者による展示 第45条
公開の美術の著作物等の利用 第46条
美術の著作物等の展示に伴う複製等 第47条
美術の著作物等の譲渡等の申出に伴う複製等 第47条の2
プログラムの著作物の複製物の所有者による複製等 第47条の3
電子計算機における著作物の利用に付随する利用等 第47条の4
電子計算機による情報処理及びその結果の提供に付随する軽微利用等 第47条の5
翻訳,翻案等による利用 第47条の6
複製権の制限により作成された複製物の譲渡 第47条の7

教育活動の過程では,日本人が創作した著作物だけでなく,外国人が創作した著作物を利用する場合もあります。著作権に関する国際条約により,外国人の著作物であっても自国民の著作物と同様の条件で保護することになっており,それらの国際条約には多くの国々が加盟していますので,私たちが目にすることができる外国人の著作物のほとんどについて,日本国内で利用する際には日本人と同様の権利が認められることになります。