引用するってどういう行為
調べたことや考えたことをまとめる際,既存の著作物を利用することは多い。その場合,どのような「引用」が学びの作法として適しているかについて考える。
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教師・児童(生徒)の発問・発言例
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市のホームページや社会科の資料集に載っている記事や図版をまとめ資料に使う時には,作者に断らないといけないのかな?
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私たちが考えたこととホームページや資料集の内容を対比するときはどうなんだろう?
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思考を深めるためのヒント(アドバイス)
- 「いろいろな情報を集めてまとめ資料を作成すること」と,「それらの情報とみんなが考えたこととを対比すること」とは少し違うことに気づくことができるよう,助言したい。
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調べ学習に用いる資料によってはそれが二次資料であるものもある。
「孫引き」は情報を歪曲してしまう可能性があるため,調べ学習に際しては必ず一次資料に当たるよう,心がけさせたい。 - また,一次資料であっても必ず正しい情報であるとは限らない。児童生徒の発達段階に応じてファクト・チェックの方法を学ばせたい。
- 初等中等教育段階では,児童生徒自身の考えを支えるような,思考の方向性が同じものを引用することが多いが,既存の考え方を否定するために引用することも,引用の目的上正当な範囲内といえる。
意見の違いを表明することは,思想・良心の自由や表現の自由として憲法で認められているが,意見の違いという程度を越えて誹謗中傷するような場合は,内容によっては侮辱罪や名誉棄損罪の刑事責任が問われることがある。
討論などによって気づかせたいポイント
- このような場面は身近な社会課題に関する調べ学習でみられるが,読書感想文や作文を書かせる学習でも「引用」の考え方が応用できる。
- 学級新聞を作成する活動でも,「引用」の考え方が応用できる。
- 児童会活動や生徒会活動で委員会から広報をする活動でも,「引用」の考え方が応用できる。
- 文書による情報発信だけでなく,口頭で発表する場面でも,「引用」の考え方が応用できる。
先生のためのメモ(著作権の視点)
市のホームページや社会科の資料集に載っている記事や図版をまとめ資料に使う場合でも,児童生徒が考えたこととホームページや資料集の内容を対比する場合でも,既存の情報の作成者に敬意を払うことは重要です。
ただし,いずれの場合でも例外的に著作権者の許諾を得ずに利用できる可能性があります。
市のホームページや社会科の資料集に載っている記事や図版をまとめ資料に使う場合,授業の過程で利用するに当たり,必要と認められる限度で,著作権者の利益を不当に害することにならない方法であれば,著作権者の許諾を得る必要はありません。(学校その他の教育機関における複製等)
児童生徒が考えたこととホームページや資料集の内容を対比する場合,公正な慣行に合致する方法で,引用の目的上正当な範囲内で引用するのであれば,著作権者の許諾を得る必要はありません。(引用)
引用に当たっては,既存の著作物を尊重する観点から,表現を改変しない配慮が大切です。
「出典を表記しさえすれば,引用として許諾を得ずに著作物を利用できる」という誤解がありますが,出典の表記は例外(引用)に該当するかどうかを判断するための条件ではなく,例外に該当する場合にしなくてはいけない義務です。
調べ学習をした結果,既存の著作物を通じて得られた知見を児童生徒自身が頭の中で再構築し(学んだ情報を換骨奪胎し),児童生徒独自の言葉遣いやビジュアル表現を行い,既存の著作物の「表現」を利用していないと評価される場合には,著作権者の許諾はもとより不要となることもあり得ます。
先生のためのメモ(著作権の視点)(共通編)
作品を「利用する」とは,著作権制度では の行為をすることを指します。
これらの行為をする場合には,原則として作者の許諾を得る必要があります。
著作権者本人と簡単に連絡がとれない場合,
①出版社などそのコンテンツを提供している会社に手紙を書いたり電話をかけたりして,その作品を利用したいという希望を伝えてもらう
②その作品の分野(漫画,写真,音楽,文芸作品など)ごとの作家団体に連絡する(その団体が作家に代わって許諾してくれる場合もある。
③Webサイトを通じて提供されているコンテンツの中には,「一定条件を満たす場合には,了解を得るための連絡をすることなく利用しても構わない」という意思で提供されているものがあるので,それぞれのWebサイトの利用規定などを調べる
④SNSを利用している作者であれば,ダイレクトメッセージなどでコンタクトをとってみる
などの方法があります。
著作物の利用について許諾を得るために作者(著作権者)と個別に交渉する際には,以下のような点をあらかじめ考えておきましょう。
- 利用したい行為(複製,演奏,公衆送信など)は何なのか(「あれもしたい,これもしたい」と幅広い希望を出すと,作者の立場では一般的には簡単に許諾したくないと考えるのは自然です。いろいろな利用が想定されているのであれば「あれもしたい,これもしたい」という希望を提示してもよいでしょうが,「どこまで利用するかは分からないけれど,とりあえず」という状況であれば,利用方法を限定して許諾を求める方が,許諾を得やすいでしょう。)
- デジタル媒体で利用するのか,アナログ媒体で利用するのか(作者の立場から考えると,許諾した場合,他の目的への転用,反復的な利用などが心配になります。他の転用がしにくい利用であれば,心情的に許諾しやすくなります。)
- 利用する著作物を提供・提示する範囲はどこまでか(学校の教育活動も地域社会と連携して進められる場面が増えており,地域社会に向けた情報発信も奨励されています。作者の立場で考えると,その著作物が無制限に(世界中に向けて)発信されるのか,学校内の閉じられた範囲に向けて発信されるのかには大きな違いがあり,許諾しやすいかしにくいかに影響する場合もあります。)
- 許諾の対価(使用料)はどの程度払えるのか(著作物の利用許諾に係る契約は「私契約」なので,その条件は当事者が交渉して決めることになります。)
作者の気持ちは様々なので「了解を得る方法」を法律などで限定的に定めることは困難です。技術の進歩や経済のグローバル化などの社会の変化に応じて関係者が話し合うことを通じ,著作者の権利を尊重しつつ,より円滑に利用できる(簡便に了解が得られる)方法を開発していくことが大切です。
例外規定(権利制限規定)が適用できない場合,著作物の種類によっては著作権の集中管理が進んでいるものもあるため,著作権等管理事業者に連絡することにより事務的な手続きにより許諾が得られる場合もあります。
著作権等管理事業者は,著作権等管理事業法の規定により,著作物を利用しようとする者に対して応諾義務を負っていますので,利用を拒むことはできません(通常,使用料規程に定められた額の使用料を支払うことが必要です)。
著作権(複製権,上演権・演奏権,公衆送信権などの財産権)については,権利が存続する期間(保護期間)が定められています。
著作権が存続している著作物を利用するために著作権者から許諾を得ようとしたにもかかわらず,著作権者の所在が不明で連絡が取れず,許諾が得られない場合には,文化庁長官の裁定を受けてその著作物を利用することができます。その仕組みをまとめると のとおりです。
教育活動の過程では,日本人が創作した著作物だけでなく,外国人が創作した著作物を利用する場合もあります。著作権に関する国際条約により,外国人の著作物であっても自国民の著作物と同様の条件で保護することになっており,それらの国際条約には多くの国々が加盟していますので,私たちが目にすることができる外国人の著作物のほとんどについて,日本国内で利用する際には日本人と同様の権利が認められることになります。