出典ってどう書けばいいの
「引用」をする場合や「授業の過程でのコピー」をする場合,出典表記(出所の明示)をするが,どのように書けばよいのか考える。
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教師・児童(生徒)の発問・発言例
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レポートの最後に「参考資料」として本の名前などをまとめておくといいんじゃない?
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先生が授業のために作ってくれるプリントには,図版の下に「○○より」って書いてあるね。
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調べたたくさんの資料の中には,レポートの中で紹介しているものもあれば,読んだだけでレポートには反映されていないものもあるんだけど…
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思考を深めるためのヒント(アドバイス)
- 児童生徒の自由研究や調べ学習の成果をまとめる際,始めから終わりまで独自の実験・観察や統計的調査をしている場合もあるが,発表された既存の資料を調べて児童生徒なりに整理・分析する場合も多い。
- この場合,レポートの中で,「自分で独自に調べて明らかにしたこと」と,「先行研究から学んだこと」を区別して整理することに自覚的であるよう指導したい。
- また,書籍や資料を読み,考え方を理解したものの,それに示されていたデータや記述を児童生徒自身のレポートには反映しない(引用もしないし紹介もしない)ケースもある。
討論などによって気づかせたいポイント
既存の書籍や資料から文章や図版を「引用」した場合には,それを児童生徒自身が作成したわけではないことを明らかにする(人が作ったものをあたかも自分が作ったもののようにふるまわない)ために,どの部分が他者の表現なのかが分かるように工夫する。
文章表現を引用したのであれば,「 」でくくったり,文字の大きさを変更したり,行頭の高さを変えたりすることによって区別がつけやすいが,引用は文章ばかりとは限らないので,どの部分が他者の表現なのかについて「こうすれば正しい」という決まった方法はない。読者から見て,児童生徒自身の表現なのか,既存の書籍等から引用した表現なのかが分かりやすいかどうかという観点から,適切な方法を考えることが大切である。
既存の書籍等から引用する場合,その引用の元となった既存の書籍等が何なのかを示す必要がある。これを出典の表記とか出所の明示と呼ぶ。
これには,研究した成果を先にまとめてくれた先行研究者に対して敬意を表するという意味と,調査研究の論拠とした情報源を明らかにし、レポートの読者が検証できるようにするという意味がある。
つまり,児童生徒が調べて得た結論が正しいのかをレポートの読者が調べ直そうとしたときに,その先行研究の書籍等にたどり着けないような表記であれば,その出典表記(出所明示)は不適切だということになる。
出典表記(出所明示)の方法についても,例えば文献であれば,出版社名,雑誌名,作品(論文など)のタイトル,発行年,掲載ページ数などで示すことが一般的である。表示する位置は,巻末であったり,章末であったり,該当ページの下部であったりするが,読者にとって親切な方法を考えればよい(学会誌や専門誌などの場合,出典の記載方法が定められている場合もある)。
また,引用は文章ばかりとは限らず,口頭発表による講演から引用したり,演奏により発表された音楽作品を引用したりするなど様々なので,著作物の種類や発表された形式に応じて,その引用元(作品)が特定できるよう適切な方法を考えることが大切である。
既存の書籍や資料を読んで参考にしただけで,レポートの中では引用をしていないような場合,巻末などに「参考文献」として書名や著者名を記載しておくという例も多い。表現の引用をしたわけではないので,掲載ページ数などを記載する必要性は少ない。巻末に引用の出典と併せて記載する方法もあるが,引用したものなのか,参考にしたものなのかが区別できるような配慮が必要である。
インターネットを通じて入手した資料を引用した場合,その出典として該当記事のURLを表記する方法もあるが,リンク切れになっていることもあるので,できるだけ原典を特定しやすいような情報で出典を表記するようにしたい。例えば,「文部科学省中央教育審議会□□分科会△△部会▽▽委員会,令和○年○月○日開催第○回会議資料『◎◎の現状について』p.20」という程度の情報があれば,読者も検証しやすい。
なお,検索エンジンで検索してヒットした情報からコピペをして引用し,URLを表示するような例もあるが,その情報が正確なものか,最新のものかについてのチェックをせず,見つかったものを安易にそのままレポートなどに利用することは,調査研究の態度としては問題があるので,適切なファクトチェックを意識する必要がある。
先生のためのメモ(著作権の視点)
著作権制度では,引用により他人の著作物を複製した場合,出所を明示する義務があります(複製以外の方法で引用する場合には,出所を明示する慣行がある場合に義務があります)。
また,教育機関における複製等の規定により他人の著作物を利用(複製,公衆送信,伝達)した場合には,出所を明示する慣行がある場合に義務があるとされています。
インターネットを通じてライブ送信されている教育用Webコンテンツを授業の過程で児童生徒に伝達している際に,著作物が提示された場合など,教員が出所明示をする準備ができないようなケースを除き,一般的には,出所を明示する慣行があると考えてよいでしょう。
「出典表記(出所明示)をすれば引用となり,著作権者の許諾を得なくてもよい」という誤解がありますが,引用とは「引用の目的上正当な範囲内の引用であること」「公正な慣行に合致する方法で引用すること」「引用の必然性があること」といった要件を満たした場合に,例外的に著作権者の許諾を得なくてもよいというルールであり,出典表記(出所明示)はそのような要件を満たして許諾を得ずに利用できる場合に課される義務だということに注意が必要です(出典表記(出所明示)は無断で利用できる免罪符ではない)。
先生のためのメモ(著作権の視点)(共通編)
作品を「利用する」とは,著作権制度では の行為をすることを指します。
これらの行為をする場合には,原則として作者の許諾を得る必要があります。
著作権者本人と簡単に連絡がとれない場合,
①出版社などそのコンテンツを提供している会社に手紙を書いたり電話をかけたりして,その作品を利用したいという希望を伝えてもらう
②その作品の分野(漫画,写真,音楽,文芸作品など)ごとの作家団体に連絡する(その団体が作家に代わって許諾してくれる場合もある。
③Webサイトを通じて提供されているコンテンツの中には,「一定条件を満たす場合には,了解を得るための連絡をすることなく利用しても構わない」という意思で提供されているものがあるので,それぞれのWebサイトの利用規定などを調べる
④SNSを利用している作者であれば,ダイレクトメッセージなどでコンタクトをとってみる
などの方法があります。
著作物の利用について許諾を得るために作者(著作権者)と個別に交渉する際には,以下のような点をあらかじめ考えておきましょう。
- 利用したい行為(複製,演奏,公衆送信など)は何なのか(「あれもしたい,これもしたい」と幅広い希望を出すと,作者の立場では一般的には簡単に許諾したくないと考えるのは自然です。いろいろな利用が想定されているのであれば「あれもしたい,これもしたい」という希望を提示してもよいでしょうが,「どこまで利用するかは分からないけれど,とりあえず」という状況であれば,利用方法を限定して許諾を求める方が,許諾を得やすいでしょう。)
- デジタル媒体で利用するのか,アナログ媒体で利用するのか(作者の立場から考えると,許諾した場合,他の目的への転用,反復的な利用などが心配になります。他の転用がしにくい利用であれば,心情的に許諾しやすくなります。)
- 利用する著作物を提供・提示する範囲はどこまでか(学校の教育活動も地域社会と連携して進められる場面が増えており,地域社会に向けた情報発信も奨励されています。作者の立場で考えると,その著作物が無制限に(世界中に向けて)発信されるのか,学校内の閉じられた範囲に向けて発信されるのかには大きな違いがあり,許諾しやすいかしにくいかに影響する場合もあります。)
- 許諾の対価(使用料)はどの程度払えるのか(著作物の利用許諾に係る契約は「私契約」なので,その条件は当事者が交渉して決めることになります。)
作者の気持ちは様々なので「了解を得る方法」を法律などで限定的に定めることは困難です。技術の進歩や経済のグローバル化などの社会の変化に応じて関係者が話し合うことを通じ,著作者の権利を尊重しつつ,より円滑に利用できる(簡便に了解が得られる)方法を開発していくことが大切です。
例外規定(権利制限規定)が適用できない場合,著作物の種類によっては著作権の集中管理が進んでいるものもあるため,著作権等管理事業者に連絡することにより事務的な手続きにより許諾が得られる場合もあります。
著作権等管理事業者は,著作権等管理事業法の規定により,著作物を利用しようとする者に対して応諾義務を負っていますので,利用を拒むことはできません(通常,使用料規程に定められた額の使用料を支払うことが必要です)。
著作権(複製権,上演権・演奏権,公衆送信権などの財産権)については,権利が存続する期間(保護期間)が定められています。
著作権が存続している著作物を利用するために著作権者から許諾を得ようとしたにもかかわらず,著作権者の所在が不明で連絡が取れず,許諾が得られない場合には,文化庁長官の裁定を受けてその著作物を利用することができます。その仕組みをまとめると のとおりです。
教育活動の過程では,日本人が創作した著作物だけでなく,外国人が創作した著作物を利用する場合もあります。著作権に関する国際条約により,外国人の著作物であっても自国民の著作物と同様の条件で保護することになっており,それらの国際条約には多くの国々が加盟していますので,私たちが目にすることができる外国人の著作物のほとんどについて,日本国内で利用する際には日本人と同様の権利が認められることになります。