創作してみよう(造形)
創作活動においては,既存の作品を参考にすることが多い。創作活動は第三者に向けて発表することを前提としているため,他人の著作物を利用するときに何に注意する必要があるのかについて考える。
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教師・児童(生徒)の発問・発言例
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オリジナル作品って難しいよね。
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有名な画家も模写から練習したという話を聞いたことがあるよ。
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そんなのありなの?
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印象派の芸術家が日本の浮世絵の影響を受けたという話があるね。
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思考を深めるためのヒント(アドバイス)
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「創作」と「模倣」の違いについて考える。
見たことがないものであれば「真似」のしようがない。
創作したのか模倣したのかの違いは結果だけでは判断が難しい場合がある(作っている過程の事実をどう認定(立証)するかの問題)。 - 「学び」は,先人の生み出した文化・学術・芸術の成果を真似することから入ることが多いということに気づかせたい。
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印象派の画家が活躍した時代(19世紀)はちょうど著作権に関する国際的な条約ができた頃(1886年ベルヌ条約)であったが,著作権制度の観点から作家が「模倣」をどれだけ厳格に認識していたかはよくわからない。
現在でもいわゆる「習作」の一つの方法として,練習のため既存作品を模写することは行われている。なお,「画風」「作風」は著作物ではないとされている。 - 紙粘土の工作作品のほか,家庭科の手芸作品や体育の創作ダンスでも類似の活動ができる。
- 家庭科の手芸作品制作の活動で,刺繍などにより人気キャラクターを模してデザイン化する場合と,同じキャラクターでアップリケやワッペンとして市販されているものを購入して貼り付ける場合とでは,「模倣」の有無に違いがある。児童生徒の興味・関心によってはこのことを考えさせてもよい。
討論などによって気づかせたいポイント
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真似をしながら学んでいくことは文化の発展の歴史の中でも認められていたこと。
ただし,真似をしてできあがったものを自己の作品ということはできない。 - 創作活動は第三者に向けて発表することを前提としている場合も多いため,他人の著作物を利用するときに何に注意する必要があるのか意識することが大切。
- 「似ているからダメ」というように短絡的に判断するのではなく,過程を考えるようにする。
先生のためのメモ(著作権の視点)
二つの作品の出来栄えが似通っている場合,直ちに「どちらかの作品が他方の作品を真似(複製)した」と断じることはできません。
仮に,一方の作品が他方の作品に依拠せず独自に創作(表現)された結果,たまたま他の作品に非常に似たものができあがったとすれば,真似をしたわけではないので,両方がそれぞれ独立した作品であると評価してもかまわない場合があるからです。
先生のためのメモ(著作権の視点)(共通編)
作品を「利用する」とは,著作権制度では の行為をすることを指します。
これらの行為をする場合には,原則として作者の許諾を得る必要があります。
著作権者本人と簡単に連絡がとれない場合,
①出版社などそのコンテンツを提供している会社に手紙を書いたり電話をかけたりして,その作品を利用したいという希望を伝えてもらう
②その作品の分野(漫画,写真,音楽,文芸作品など)ごとの作家団体に連絡する(その団体が作家に代わって許諾してくれる場合もある。
③Webサイトを通じて提供されているコンテンツの中には,「一定条件を満たす場合には,了解を得るための連絡をすることなく利用しても構わない」という意思で提供されているものがあるので,それぞれのWebサイトの利用規定などを調べる
④SNSを利用している作者であれば,ダイレクトメッセージなどでコンタクトをとってみる
などの方法があります。
著作物の利用について許諾を得るために作者(著作権者)と個別に交渉する際には,以下のような点をあらかじめ考えておきましょう。
- 利用したい行為(複製,演奏,公衆送信など)は何なのか(「あれもしたい,これもしたい」と幅広い希望を出すと,作者の立場では一般的には簡単に許諾したくないと考えるのは自然です。いろいろな利用が想定されているのであれば「あれもしたい,これもしたい」という希望を提示してもよいでしょうが,「どこまで利用するかは分からないけれど,とりあえず」という状況であれば,利用方法を限定して許諾を求める方が,許諾を得やすいでしょう。)
- デジタル媒体で利用するのか,アナログ媒体で利用するのか(作者の立場から考えると,許諾した場合,他の目的への転用,反復的な利用などが心配になります。他の転用がしにくい利用であれば,心情的に許諾しやすくなります。)
- 利用する著作物を提供・提示する範囲はどこまでか(学校の教育活動も地域社会と連携して進められる場面が増えており,地域社会に向けた情報発信も奨励されています。作者の立場で考えると,その著作物が無制限に(世界中に向けて)発信されるのか,学校内の閉じられた範囲に向けて発信されるのかには大きな違いがあり,許諾しやすいかしにくいかに影響する場合もあります。)
- 許諾の対価(使用料)はどの程度払えるのか(著作物の利用許諾に係る契約は「私契約」なので,その条件は当事者が交渉して決めることになります。)
作者の気持ちは様々なので「了解を得る方法」を法律などで限定的に定めることは困難です。技術の進歩や経済のグローバル化などの社会の変化に応じて関係者が話し合うことを通じ,著作者の権利を尊重しつつ,より円滑に利用できる(簡便に了解が得られる)方法を開発していくことが大切です。
例外規定(権利制限規定)が適用できない場合,著作物の種類によっては著作権の集中管理が進んでいるものもあるため,著作権等管理事業者に連絡することにより事務的な手続きにより許諾が得られる場合もあります。
著作権等管理事業者は,著作権等管理事業法の規定により,著作物を利用しようとする者に対して応諾義務を負っていますので,利用を拒むことはできません(通常,使用料規程に定められた額の使用料を支払うことが必要です)。
著作権(複製権,上演権・演奏権,公衆送信権などの財産権)については,権利が存続する期間(保護期間)が定められています。
著作権が存続している著作物を利用するために著作権者から許諾を得ようとしたにもかかわらず,著作権者の所在が不明で連絡が取れず,許諾が得られない場合には,文化庁長官の裁定を受けてその著作物を利用することができます。その仕組みをまとめると のとおりです。
教育活動の過程では,日本人が創作した著作物だけでなく,外国人が創作した著作物を利用する場合もあります。著作権に関する国際条約により,外国人の著作物であっても自国民の著作物と同様の条件で保護することになっており,それらの国際条約には多くの国々が加盟していますので,私たちが目にすることができる外国人の著作物のほとんどについて,日本国内で利用する際には日本人と同様の権利が認められることになります。