これは真似だろうか?
課題を提出したり作品を作成する際,児童生徒の表現が既存の作品(他の児童生徒の作品や書籍・Webサイト等で発表されている作品など)に似ている場合,その行為が他者の作品を真似たことになるのかどうかについて考える。
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教師・児童(生徒)の発問・発言例
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みんなそれぞれの気持ちで描けたかな?
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どんな工夫をしましたか?
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真似はダメだよね。
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あなたの気持ちや工夫は?
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思考を深めるためのヒント(アドバイス)
- 「それぞれの気持ち」「それぞれの表現方法」「それぞれの工夫」をできるだけたくさん挙げさせたい。
- 「アイディアやテーマ」と「表現」とはどう違うのかについて気づかせたい(同じテーマでも,それを表現する作者の気持ちはみんな異なっており,表現もそれぞれに工夫がある)。
児童生徒に気づかせたいポイント
- 「創作」という行為は誰にでもできる(人間ならではの活動)。
- それぞれの作品には作者の思想や感情が表現されているので,どの作品にも無形の価値がある。
- 同じものを見たり聞いたりしても,そこで感じたことを表現すると,着眼点や表現方法は人それぞれに違いがある(みんな工夫している)。
- 「学ぶ(まなぶ、まねぶ)」という言葉は「まねる」に由来するといわれるように,人が学習をする多くの場合,既存の知識や技能などの文化的所産を手本として模倣し,そこから考え方や表現の仕方を身に付けた上で,それを応用したりさらに深化させたりして自らの力にしていく。このように,真似をすること自体は学習活動の一つの方法であって必ずしも否定されるものではない。しかし,真似たものを自らの作品のように扱うような行為は,学習の態度としては許されない。
- 真似かどうかは,創作過程に「模倣」があるかどうかがカギなので,出来上がったものを見ただけで判断しないようにしたい。
先生のためのメモ(著作権の視点)
「思ったこと/感じたこと」と「(それが)表現されたもの」とは異なります(「思うこと/感じること」は人それぞれに自然に起こることなので,「同じことを思ってはいけない」という権利は誰にもありません)。
著作権制度には「真似をしてはいけない」というルールはありません(まねることも学習の側面があるからです)。
著作権制度では,著作権者に複製が認められていますが,私的に(自分で勉強したり楽しんだりするために)既存の作品を複製することには著作権者の権利は及びません。また,そのような目的を越えて(第三者に見せたり聞かせたりするために)複製する場合でも,その著作権者の許諾を得れば問題はありません。
とかく「真似をしてはいけない」「コピーしてはいけない」と言ってしまいがちですが,真似ることにも意味がある場合がありますし,著作権者の許諾を得れば真似をしても権利の侵害にはなりません。
「著名作品の模写」といった学習活動もあります。この場合,著作権の保護期間が満了したものであれば,作者の許諾を得ずに利用しても権利侵害の問題は生じません。また,著作権が存続しているものであっても,授業の過程において必要と認められる限度の模写(複製)であれば,例外的に作者の許諾を得る必要がない場合があります(学校その他の教育機関における複製等)。ただし,「授業の過程における利用」という条件に照らすと,その学習成果(模写した作品)を展覧会などで対外的に発表するような行為まで同規定の適用があるとまではいえない可能性があります。
先生のためのメモ(著作権の視点)(共通編)
作品を「利用する」とは,著作権制度では の行為をすることを指します。
これらの行為をする場合には,原則として作者の許諾を得る必要があります。
著作権者本人と簡単に連絡がとれない場合,
①出版社などそのコンテンツを提供している会社に手紙を書いたり電話をかけたりして,その作品を利用したいという希望を伝えてもらう
②その作品の分野(漫画,写真,音楽,文芸作品など)ごとの作家団体に連絡する(その団体が作家に代わって許諾してくれる場合もある。
③Webサイトを通じて提供されているコンテンツの中には,「一定条件を満たす場合には,了解を得るための連絡をすることなく利用しても構わない」という意思で提供されているものがあるので,それぞれのWebサイトの利用規定などを調べる
④SNSを利用している作者であれば,ダイレクトメッセージなどでコンタクトをとってみる
などの方法があります。
著作物の利用について許諾を得るために作者(著作権者)と個別に交渉する際には,以下のような点をあらかじめ考えておきましょう。
- 利用したい行為(複製,演奏,公衆送信など)は何なのか(「あれもしたい,これもしたい」と幅広い希望を出すと,作者の立場では一般的には簡単に許諾したくないと考えるのは自然です。いろいろな利用が想定されているのであれば「あれもしたい,これもしたい」という希望を提示してもよいでしょうが,「どこまで利用するかは分からないけれど,とりあえず」という状況であれば,利用方法を限定して許諾を求める方が,許諾を得やすいでしょう。)
- デジタル媒体で利用するのか,アナログ媒体で利用するのか(作者の立場から考えると,許諾した場合,他の目的への転用,反復的な利用などが心配になります。他の転用がしにくい利用であれば,心情的に許諾しやすくなります。)
- 利用する著作物を提供・提示する範囲はどこまでか(学校の教育活動も地域社会と連携して進められる場面が増えており,地域社会に向けた情報発信も奨励されています。作者の立場で考えると,その著作物が無制限に(世界中に向けて)発信されるのか,学校内の閉じられた範囲に向けて発信されるのかには大きな違いがあり,許諾しやすいかしにくいかに影響する場合もあります。)
- 許諾の対価(使用料)はどの程度払えるのか(著作物の利用許諾に係る契約は「私契約」なので,その条件は当事者が交渉して決めることになります。)
作者の気持ちは様々なので「了解を得る方法」を法律などで限定的に定めることは困難です。技術の進歩や経済のグローバル化などの社会の変化に応じて関係者が話し合うことを通じ,著作者の権利を尊重しつつ,より円滑に利用できる(簡便に了解が得られる)方法を開発していくことが大切です。
例外規定(権利制限規定)が適用できない場合,著作物の種類によっては著作権の集中管理が進んでいるものもあるため,著作権等管理事業者に連絡することにより事務的な手続きにより許諾が得られる場合もあります。
著作権等管理事業者は,著作権等管理事業法の規定により,著作物を利用しようとする者に対して応諾義務を負っていますので,利用を拒むことはできません(通常,使用料規程に定められた額の使用料を支払うことが必要です)。
著作権(複製権,上演権・演奏権,公衆送信権などの財産権)については,権利が存続する期間(保護期間)が定められています。
著作権が存続している著作物を利用するために著作権者から許諾を得ようとしたにもかかわらず,著作権者の所在が不明で連絡が取れず,許諾が得られない場合には,文化庁長官の裁定を受けてその著作物を利用することができます。その仕組みをまとめると のとおりです。
教育活動の過程では,日本人が創作した著作物だけでなく,外国人が創作した著作物を利用する場合もあります。著作権に関する国際条約により,外国人の著作物であっても自国民の著作物と同様の条件で保護することになっており,それらの国際条約には多くの国々が加盟していますので,私たちが目にすることができる外国人の著作物のほとんどについて,日本国内で利用する際には日本人と同様の権利が認められることになります。
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