生成AIを使ってみる
生成AIは発展途上の技術であり,偽情報や誤情報の出力など課題が多いが,技術の発達を抑制したり規制したりすることにも問題がある。その開発の在り方などについて国際機関などにおいても議論されているが,現時点では,社会にとって有益な方法で利用することができるリテラシー育成が期待されている。このような社会の動きについて考える。
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教師・児童(生徒)の発問・発言例
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生成AIを使いこなせるようになるには,AIリテラシーや「学びに向かう力,人間性」などの涵養が重要になります。
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便利なツールではあるけれど,軽い気持ちで使うと,学習の結果が身につかないとか,場合によって人を傷つけたり迷惑をかけたりすることになるということ?
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簡単に答えが出てくるから便利だと思ってたんだけど…
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勉強に使うのは問題がありそうだけど,生成AIをうまく活用できる分野もあるのかもしれない。
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思考を深めるためのヒント(アドバイス)
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従来のAIは,ビッグデータを学習し,オペレータの指示に従って分析し,人間に処理できない速度で分析し,適切な回答を選んで出力するものだった。
生成AIは,ビッグデータを学習し,オペレータの指示に従って分析するところまでは同様であるが,学習した内容から新たに文章や画像を作成したり,アイディアを提案したりすることができ,しかもそれを自然な表現で返答してくれる。 - 生成AIの利用の問題は,学習過程でのWikipediaの利用と似たような課題がある。
Wikipediaに記載された記事は,インターネットを通じて得られるものに基づいて構成されているが,そのような情報の中には真偽の怪しいものもなくはない。Wikipediaの記事の執筆者がその分野の中心的な専門家であるとは限らず,誤った情報が混ざっていることもあるので,Wikipediaを使って調べ物をする場合には,記載された情報を鵜呑みにするのではなく,記事の中で紹介されている一次資料に必ず当たる必要があるといわれている。
討論などによって気づかせたいポイント
著作権との関係では,「技術者が生成AIを開発すること,生成AI自身がディープ・ラーニングすること」「ユーザーが生成AIを利用して文章や画像を出力すること,生成AIから出力された画像等をアップロードしたり出版したりすること」「生成AIから出力されたものの著作物性」といった3点について現時点での整理が行われた(文化庁)。
学校教育との関係では,生成AIのメリット・デメリットなど教育活動の可能性を見極める必要性があることから,生成AIの教育利用は限定的な利用から始めることとしている。
生成AIから出力されたものに係る著作権制度上の位置づけ(著作物といえるか否か,いえる場合に誰が著作者か)については,その途中のプロセスによって結論が変わりうるので,生成AIからの出力結果が著作権の観点からどう評価されるかは一概に判断できない。
「どのような利用であれば著作権侵害にならない」といったような発想をしないようにし,学校教育ではファクトチェックの思考を身に付けるよう指導することが重要。
先生のためのメモ(著作権の視点)
生成AIに関係する例外規定は,「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用」(第30条の4)であり,多数の著作物その他の大量の情報から,当該情報を構成する言語,音,映像その他の要素に係る情報を抽出し,比較,分類その他の解析を行うためであれば著作権者の許諾を得る必要がないというものです。
一方で権利者からは,生成AIによる行為は著作権者等の利益を不当に害するものだとの意見が表明されており,文化審議会における検討の中では,許諾を得ずに行えるわけではないと考えられる例も整理されています。
結局のところ,個別の事案ごとに判断せざるを得ませんが,さらに法整備が必要かどうかについては引き続き検討されることになります。
いわゆる「画風」(その作家の独特のタッチ)は著作物ではないとされているので,著名な作家の筆遣いを模倣して新たな絵(模写ではない)を描き下ろした場合,著作権侵害とはいえません。したがって,印象派のゴッホの筆遣いで東京スカイツリーの絵を描くように指示したとすれば,できあがったものは(ゴッホ風ではありますが)コピーされる元の作品が存在しないため,著作権侵害の問題は生じません。
しかし,この例のような単純な指示であれば著作権の侵害にならないだけであって,生成AIの自己学習プログラムの能力やオペレーターが与えた指示の程度によっては,出力されたものが既存の作品の著作権を侵害していると評価される可能性はあります。
また,出力されたものが新たな著作物といえるか,仮に著作物であるとすればその著作者は誰かということについても,生成AIの機能やオペレータの関与の状況によって異なってくると考えられます。
実在する俳優や声優の声を模して生成AIに会話をさせる機能が出現していますが,現行の著作権制度では,役者や歌手などの声色を真似ることについて元の実演家の権利は及びません(元の実演家本人の歌唱や演技を録音したり録画したりすることには権利が及びます)。この問題については実演家からも問題提起されており,新たな課題です。
生成AIに関する技術開発は現在も日々更新中ですので,法制度の改正が必要なのかどうかを含め,社会の状況の変化を見極めて判断する必要があります。
先生のためのメモ(著作権の視点)(共通編)
作品を「利用する」とは,著作権制度では の行為をすることを指します。
これらの行為をする場合には,原則として作者の許諾を得る必要があります。
著作権者本人と簡単に連絡がとれない場合,
①出版社などそのコンテンツを提供している会社に手紙を書いたり電話をかけたりして,その作品を利用したいという希望を伝えてもらう
②その作品の分野(漫画,写真,音楽,文芸作品など)ごとの作家団体に連絡する(その団体が作家に代わって許諾してくれる場合もある。
③Webサイトを通じて提供されているコンテンツの中には,「一定条件を満たす場合には,了解を得るための連絡をすることなく利用しても構わない」という意思で提供されているものがあるので,それぞれのWebサイトの利用規定などを調べる
④SNSを利用している作者であれば,ダイレクトメッセージなどでコンタクトをとってみる
などの方法があります。
著作物の利用について許諾を得るために作者(著作権者)と個別に交渉する際には,以下のような点をあらかじめ考えておきましょう。
- 利用したい行為(複製,演奏,公衆送信など)は何なのか(「あれもしたい,これもしたい」と幅広い希望を出すと,作者の立場では一般的には簡単に許諾したくないと考えるのは自然です。いろいろな利用が想定されているのであれば「あれもしたい,これもしたい」という希望を提示してもよいでしょうが,「どこまで利用するかは分からないけれど,とりあえず」という状況であれば,利用方法を限定して許諾を求める方が,許諾を得やすいでしょう。)
- デジタル媒体で利用するのか,アナログ媒体で利用するのか(作者の立場から考えると,許諾した場合,他の目的への転用,反復的な利用などが心配になります。他の転用がしにくい利用であれば,心情的に許諾しやすくなります。)
- 利用する著作物を提供・提示する範囲はどこまでか(学校の教育活動も地域社会と連携して進められる場面が増えており,地域社会に向けた情報発信も奨励されています。作者の立場で考えると,その著作物が無制限に(世界中に向けて)発信されるのか,学校内の閉じられた範囲に向けて発信されるのかには大きな違いがあり,許諾しやすいかしにくいかに影響する場合もあります。)
- 許諾の対価(使用料)はどの程度払えるのか(著作物の利用許諾に係る契約は「私契約」なので,その条件は当事者が交渉して決めることになります。)
作者の気持ちは様々なので「了解を得る方法」を法律などで限定的に定めることは困難です。技術の進歩や経済のグローバル化などの社会の変化に応じて関係者が話し合うことを通じ,著作者の権利を尊重しつつ,より円滑に利用できる(簡便に了解が得られる)方法を開発していくことが大切です。
例外規定(権利制限規定)が適用できない場合,著作物の種類によっては著作権の集中管理が進んでいるものもあるため,著作権等管理事業者に連絡することにより事務的な手続きにより許諾が得られる場合もあります。
著作権等管理事業者は,著作権等管理事業法の規定により,著作物を利用しようとする者に対して応諾義務を負っていますので,利用を拒むことはできません(通常,使用料規程に定められた額の使用料を支払うことが必要です)。
著作権(複製権,上演権・演奏権,公衆送信権などの財産権)については,権利が存続する期間(保護期間)が定められています。
著作権が存続している著作物を利用するために著作権者から許諾を得ようとしたにもかかわらず,著作権者の所在が不明で連絡が取れず,許諾が得られない場合には,文化庁長官の裁定を受けてその著作物を利用することができます。その仕組みをまとめると のとおりです。
教育活動の過程では,日本人が創作した著作物だけでなく,外国人が創作した著作物を利用する場合もあります。著作権に関する国際条約により,外国人の著作物であっても自国民の著作物と同様の条件で保護することになっており,それらの国際条約には多くの国々が加盟していますので,私たちが目にすることができる外国人の著作物のほとんどについて,日本国内で利用する際には日本人と同様の権利が認められることになります。