図書の貸出し(貸与)
学校図書館や自治体が設置する図書館は児童生徒にとって学習資料の宝庫である。図書館等での書籍の貸出しは,コミックレンタルなどのビジネスとどう違うのかについて考える。
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教師・児童(生徒)の発問・発言例
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大きな図書館では,CDも貸し出してるよ。
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人気アニメのDVDも貸してくれないかな。
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思考を深めるためのヒント(アドバイス)
- 公共図書館ではどのような市民サービスが行われているのか,訪問して調べさせたい。
- 図書館職員を学校に招いて,図書館の活用法について解説してもらうのもよい。
- 学校図書館では学校司書がどのような支援をしてくれるのか,との違いについても考えさせたい。
討論などによって気づかせたいポイント
- 書籍が私たちの手元に届くまでには,企画,執筆,編集,装丁,印刷,校正・校閲,製本,取次,小売りといった過程で大勢の人がそれぞれコストを負担しており、多くの読者が1冊ずつ購入することを前提に価格が設定されている。
そのため,1冊の書籍が多くの人に回し読みされてしまうと,コストが回収できなくなるおそれがある。 - 他方,公共図書館には,地域住民が文化的な情報を享受できることを保障する使命があり,図書や雑誌等を無料で貸与している。
- コミックレンタルの場合,図書館の使命とは異なり,一種のコンテンツビジネスとして発展してきた(江戸時代にはじまり,1960年代まで見られた貸本屋は,印刷技術の限界や物価高・紙不足を背景として存在していた。著作権法において「貸与権」が創設されたのは1984年であった)。
- ネットワーク技術やデジタル技術の発達によってコンテンツの流通の姿は大きく変貌しつつある。
図書館におけるサービスについても現に変化しつつあるので,そのようなテーマに興味のある児童生徒には調べ学習を支援したい。
先生のためのメモ(著作権の視点)
音楽,文章,イラスト,写真,動画などの著作物が複製されたもの(書籍,CDやDVDのパッケージなど)を公衆に貸与する場合には,原則として著作権者から貸与の許諾を得ることが必要です(映画の著作物の複製物(DVDなど)の場合,貸与と譲渡を合わせた概念である「頒布」の許諾を得る必要があります)。
ただし,公衆に貸与するために著作物の複製物を貸与する際,営利を目的としない,貸与を受ける者から対価を受けないという要件を満たしていれば例外的に著作権者から貸与の許諾を得る必要がない場合があります(営利を目的としない上演等)。公共図書館や学校図書館は,通常,これらの条件を満たしていると考えられますので,その所蔵する図書資料等を市民や児童生徒に貸し出すことについて,貸与の許諾を得る必要がありません。
なお,映画の著作物の複製物(DVDなど)の頒布(貸与)については,非営利・無料で許諾を得ずに頒布(貸与)ができる施設が視聴覚ライブラリーや公共図書館に限られています。それらの施設では,著作権者から頒布(貸与)の許諾を得る必要はありませんが,補償金を支払わなければならないことになっています。
先生のためのメモ(著作権の視点)(共通編)
作品を「利用する」とは,著作権制度では の行為をすることを指します。
これらの行為をする場合には,原則として作者の許諾を得る必要があります。
著作権者本人と簡単に連絡がとれない場合,
①出版社などそのコンテンツを提供している会社に手紙を書いたり電話をかけたりして,その作品を利用したいという希望を伝えてもらう
②その作品の分野(漫画,写真,音楽,文芸作品など)ごとの作家団体に連絡する(その団体が作家に代わって許諾してくれる場合もある。
③Webサイトを通じて提供されているコンテンツの中には,「一定条件を満たす場合には,了解を得るための連絡をすることなく利用しても構わない」という意思で提供されているものがあるので,それぞれのWebサイトの利用規定などを調べる
④SNSを利用している作者であれば,ダイレクトメッセージなどでコンタクトをとってみる
などの方法があります。
著作物の利用について許諾を得るために作者(著作権者)と個別に交渉する際には,以下のような点をあらかじめ考えておきましょう。
- 利用したい行為(複製,演奏,公衆送信など)は何なのか(「あれもしたい,これもしたい」と幅広い希望を出すと,作者の立場では一般的には簡単に許諾したくないと考えるのは自然です。いろいろな利用が想定されているのであれば「あれもしたい,これもしたい」という希望を提示してもよいでしょうが,「どこまで利用するかは分からないけれど,とりあえず」という状況であれば,利用方法を限定して許諾を求める方が,許諾を得やすいでしょう。)
- デジタル媒体で利用するのか,アナログ媒体で利用するのか(作者の立場から考えると,許諾した場合,他の目的への転用,反復的な利用などが心配になります。他の転用がしにくい利用であれば,心情的に許諾しやすくなります。)
- 利用する著作物を提供・提示する範囲はどこまでか(学校の教育活動も地域社会と連携して進められる場面が増えており,地域社会に向けた情報発信も奨励されています。作者の立場で考えると,その著作物が無制限に(世界中に向けて)発信されるのか,学校内の閉じられた範囲に向けて発信されるのかには大きな違いがあり,許諾しやすいかしにくいかに影響する場合もあります。)
- 許諾の対価(使用料)はどの程度払えるのか(著作物の利用許諾に係る契約は「私契約」なので,その条件は当事者が交渉して決めることになります。)
作者の気持ちは様々なので「了解を得る方法」を法律などで限定的に定めることは困難です。技術の進歩や経済のグローバル化などの社会の変化に応じて関係者が話し合うことを通じ,著作者の権利を尊重しつつ,より円滑に利用できる(簡便に了解が得られる)方法を開発していくことが大切です。
例外規定(権利制限規定)が適用できない場合,著作物の種類によっては著作権の集中管理が進んでいるものもあるため,著作権等管理事業者に連絡することにより事務的な手続きにより許諾が得られる場合もあります。
著作権等管理事業者は,著作権等管理事業法の規定により,著作物を利用しようとする者に対して応諾義務を負っていますので,利用を拒むことはできません(通常,使用料規程に定められた額の使用料を支払うことが必要です)。
著作権(複製権,上演権・演奏権,公衆送信権などの財産権)については,権利が存続する期間(保護期間)が定められています。
著作権が存続している著作物を利用するために著作権者から許諾を得ようとしたにもかかわらず,著作権者の所在が不明で連絡が取れず,許諾が得られない場合には,文化庁長官の裁定を受けてその著作物を利用することができます。その仕組みをまとめると のとおりです。
教育活動の過程では,日本人が創作した著作物だけでなく,外国人が創作した著作物を利用する場合もあります。著作権に関する国際条約により,外国人の著作物であっても自国民の著作物と同様の条件で保護することになっており,それらの国際条約には多くの国々が加盟していますので,私たちが目にすることができる外国人の著作物のほとんどについて,日本国内で利用する際には日本人と同様の権利が認められることになります。