歴史上の出来事を調べる
「事実としての情報」と,「その事実を伝えるために表現上の工夫が施された情報」との違いについて考える。
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教師・児童(生徒)の発問・発言例
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誰がいつ生まれたかとか,いつ何が起きたかという事実としての情報は,誰かが創作したわけではないので,資料を作った人に権利があるというものではないんだ。
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だったらOKってこと?
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図書館の歴史事典を調べる場合でも同じなのかな?
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思考を深めるためのヒント(アドバイス)
- 歴史上の出来事を年表にして,年代別に事件の名称などを並べるだけでもいいが,例えば地域別に分けるとか,人物別に分けるとか,政治・文化・自然環境などのジャンル別に分けるなど,児童生徒のオリジナリティの発揮を促したい。それが創作の大切さへの気づきになる。
- 様々な資料を調べる活動を通じ,歴史上の事実そのものと,それを表現した文章,イラストなどとの違いに気づかせたい(同じ出来事でも,資料によって表現の仕方が異なる場合がある)。
討論などによって気づかせたいポイント
- 古い歴史を調べることには専門的な知識や努力が必要で,そのような調査研究の成果には貴重な価値がある。
- しかし,発見された内容が歴史上の「事実」である以上,人の「創作」活動が関わるものではないため,社会全体で共有すべき知識(情報)と考えられている。
- 研究者の調査研究によって新たな資料が発掘され,事実に関する解釈が変更されることもある。これも,「事実」が人の「創作」ではないからである。
先生のためのメモ(著作権の視点)
歴史上の事実は,人が創作したものでないため「著作物」とはいえません。
ただし,歴史上の事実を言葉で解説したり,イラストなどで表現したりした場合,事実とは別の次元に創作的な表現が生まれ得ます。それは言語の著作物や美術の著作物などに当たる場合も多く,その場合には,文章や絵などで表現した者に著作権が認められます。
このほか,算数・数学の「公式」のような「考え方のルール(定理・法則)」についても,過去に誰かが発見した知見として人類が共有すべき情報であり,発見者が創作したものではないので,歴史上の事実と同様に著作物とはいえません(著作権はない)。ただし,公式や定理・法則を解説した論文などの文章には,その著作者に対して文章表現についての著作権が認められます。
このほか,野球やサッカーのルールも,ゲームを進めるための決め事であり,著作物とはいえません。一方,ルールを説明した文章については,その文章表現に筆者の個性が表れていれば(例えば児童生徒にもわかりやすい用語を使って説明しているなど)著作物といえる可能性があります。この場合,その解説文を勝手にコピーしようとすれば,筆者が「無断でコピーするのはやめてほしい」ということができます。しかし,そのルールに従って練習したりゲームをしたりすることについては誰の許諾を得る必要もありません。
著作物といえるものを調べ学習の成果資料に掲載する場合,原則として著作権者から複製の許諾を得ることが必要ですが,授業の過程における調べ学習などの際には,例外的に著作権者の許諾を得る必要がない場合があります(学校その他の教育機関における複製等)。
先生のためのメモ(著作権の視点)(共通編)
作品を「利用する」とは,著作権制度では の行為をすることを指します。
これらの行為をする場合には,原則として作者の許諾を得る必要があります。
著作権者本人と簡単に連絡がとれない場合,
①出版社などそのコンテンツを提供している会社に手紙を書いたり電話をかけたりして,その作品を利用したいという希望を伝えてもらう
②その作品の分野(漫画,写真,音楽,文芸作品など)ごとの作家団体に連絡する(その団体が作家に代わって許諾してくれる場合もある。
③Webサイトを通じて提供されているコンテンツの中には,「一定条件を満たす場合には,了解を得るための連絡をすることなく利用しても構わない」という意思で提供されているものがあるので,それぞれのWebサイトの利用規定などを調べる
④SNSを利用している作者であれば,ダイレクトメッセージなどでコンタクトをとってみる
などの方法があります。
著作物の利用について許諾を得るために作者(著作権者)と個別に交渉する際には,以下のような点をあらかじめ考えておきましょう。
- 利用したい行為(複製,演奏,公衆送信など)は何なのか(「あれもしたい,これもしたい」と幅広い希望を出すと,作者の立場では一般的には簡単に許諾したくないと考えるのは自然です。いろいろな利用が想定されているのであれば「あれもしたい,これもしたい」という希望を提示してもよいでしょうが,「どこまで利用するかは分からないけれど,とりあえず」という状況であれば,利用方法を限定して許諾を求める方が,許諾を得やすいでしょう。)
- デジタル媒体で利用するのか,アナログ媒体で利用するのか(作者の立場から考えると,許諾した場合,他の目的への転用,反復的な利用などが心配になります。他の転用がしにくい利用であれば,心情的に許諾しやすくなります。)
- 利用する著作物を提供・提示する範囲はどこまでか(学校の教育活動も地域社会と連携して進められる場面が増えており,地域社会に向けた情報発信も奨励されています。作者の立場で考えると,その著作物が無制限に(世界中に向けて)発信されるのか,学校内の閉じられた範囲に向けて発信されるのかには大きな違いがあり,許諾しやすいかしにくいかに影響する場合もあります。)
- 許諾の対価(使用料)はどの程度払えるのか(著作物の利用許諾に係る契約は「私契約」なので,その条件は当事者が交渉して決めることになります。)
作者の気持ちは様々なので「了解を得る方法」を法律などで限定的に定めることは困難です。技術の進歩や経済のグローバル化などの社会の変化に応じて関係者が話し合うことを通じ,著作者の権利を尊重しつつ,より円滑に利用できる(簡便に了解が得られる)方法を開発していくことが大切です。
例外規定(権利制限規定)が適用できない場合,著作物の種類によっては著作権の集中管理が進んでいるものもあるため,著作権等管理事業者に連絡することにより事務的な手続きにより許諾が得られる場合もあります。
著作権等管理事業者は,著作権等管理事業法の規定により,著作物を利用しようとする者に対して応諾義務を負っていますので,利用を拒むことはできません(通常,使用料規程に定められた額の使用料を支払うことが必要です)。
著作権(複製権,上演権・演奏権,公衆送信権などの財産権)については,権利が存続する期間(保護期間)が定められています。
著作権が存続している著作物を利用するために著作権者から許諾を得ようとしたにもかかわらず,著作権者の所在が不明で連絡が取れず,許諾が得られない場合には,文化庁長官の裁定を受けてその著作物を利用することができます。その仕組みをまとめると のとおりです。
教育活動の過程では,日本人が創作した著作物だけでなく,外国人が創作した著作物を利用する場合もあります。著作権に関する国際条約により,外国人の著作物であっても自国民の著作物と同様の条件で保護することになっており,それらの国際条約には多くの国々が加盟していますので,私たちが目にすることができる外国人の著作物のほとんどについて,日本国内で利用する際には日本人と同様の権利が認められることになります。
関連事例
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これは真似だろうか?
課題を提出したり作品を作成する際,児童生徒の表現が既存の作品(他の児童生徒の作品や書籍・Webサイト等で発表されている作品など)に似ている場合,その行為が他者の作品を真似たことになるのかどうかについて考える。
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調べ学習の成果を発表資料にしよう
夏休み等の自由研究や各教科における調べ学習を行う際,児童生徒による様々な取材活動が行われるが,そのような学習の過程では,先人が遺した文化や研究の成果を活かすことも多い。既に存在している文化的所産と自らの学びを区別して考える。
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創作してみよう(作曲)
創作活動の苦労やすばらしさに気づく。<br>音楽の創作の場合には,既存の旋律を参考にすることが多い。創作活動は第三者に向けて発表することを前提としているため,他人の著作物を利用するときに何に注意する必要があるのかについて考える。
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生成AIを使ってみる
生成AIは発展途上の技術であり,偽情報や誤情報の出力など課題が多いが,技術の発達を抑制したり規制したりすることにも問題がある。その開発の在り方などについて国際機関などにおいても議論されているが,現時点では,社会にとって有益な方法で利用することができるリテラシー育成が期待されている。このような社会の動きについて考える。