好きな作品を楽しもう
自分が創作した作品が世の中でどのように使われることを望むかについては,作品の種類(試作品なのか完成品なのかなど)や作者の状況(プロなのかアマチュアなのか,新人なのかベテランなのかなど)によって様々であり,それらは人によっても異なるし,時や場合によっても異なるので,利用しようとする人の考え(希望)とどう調整するのかについて考える。
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教師・児童(生徒)の発問・発言例
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「拡散希望」ってみんなが思ってるの?
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(宣伝してあげているのだから問題ないという考えが出た場合)勝手に宣伝してあげるというのはいいこと?
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(SNSの個人アカウントサイトなら個人的な利用だから問題ないという考えが出た場合)SNSの個人アカウントなら許されるということ?
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思考を深めるためのヒント(アドバイス)
- SNSなどに既存のコンテンツを使いたいと思うことが,その作品の価値を自ら認めているということに気づかせたい。
- 著作物の利用が法律で禁止されているわけではなく,利用する場合には原則として作者の了解が必要だということがポイント(了解を求めた結果,作者が利用を許可しないということはあり得る)。
- 広告や拡散は有益な場合もあるが,一方的に行うことがかえって迷惑になる場合もあるので,様々なケースを想像できるようになるとよい。
- 個人のSNSアカウントだからそれを通じて発信するのは「私的使用」と考えがちだが,私的使用とはプライベートな(閉鎖的な)空間で使う場合の複製を指しており,インターネットを通じて発信する行為は個人のアカウントからであっても公衆送信に当たることに気づかせたい。
討論などによって気づかせたいポイント
その作品が利用されることについて,作者がどう考えるかは様々である。
その作品を多くの人に(タダでもいいから)見てほしいと考える人もいる。その作品が売れる(対価を伴って流通する)ことによって生計を立てている人もいる。目的によって使ってほしかったり,使ってほしくなかったり,気持ちが異なる人もいる。
このようなことから,法律で一律に禁止するのではなく,当事者が自由に交渉できるようにすることの方が合理的だということ。
金儲けのためではないからとか,教育や福祉のためだからといった,利用する側の事情がある場合もあるが,作者側の事情もあるので,どちらか一方の都合だけで判断するのは必ずしも適切ではない(交渉の際にそのような事情を説明し理解しあいながら,譲歩をしていくことは当然あり得る)。
先生のためのメモ(著作権の視点)(共通編)
作品を「利用する」とは,著作権制度では の行為をすることを指します。
これらの行為をする場合には,原則として作者の許諾を得る必要があります。
著作権者本人と簡単に連絡がとれない場合,
①出版社などそのコンテンツを提供している会社に手紙を書いたり電話をかけたりして,その作品を利用したいという希望を伝えてもらう
②その作品の分野(漫画,写真,音楽,文芸作品など)ごとの作家団体に連絡する(その団体が作家に代わって許諾してくれる場合もある。
③Webサイトを通じて提供されているコンテンツの中には,「一定条件を満たす場合には,了解を得るための連絡をすることなく利用しても構わない」という意思で提供されているものがあるので,それぞれのWebサイトの利用規定などを調べる
④SNSを利用している作者であれば,ダイレクトメッセージなどでコンタクトをとってみる
などの方法があります。
著作物の利用について許諾を得るために作者(著作権者)と個別に交渉する際には,以下のような点をあらかじめ考えておきましょう。
- 利用したい行為(複製,演奏,公衆送信など)は何なのか(「あれもしたい,これもしたい」と幅広い希望を出すと,作者の立場では一般的には簡単に許諾したくないと考えるのは自然です。いろいろな利用が想定されているのであれば「あれもしたい,これもしたい」という希望を提示してもよいでしょうが,「どこまで利用するかは分からないけれど,とりあえず」という状況であれば,利用方法を限定して許諾を求める方が,許諾を得やすいでしょう。)
- デジタル媒体で利用するのか,アナログ媒体で利用するのか(作者の立場から考えると,許諾した場合,他の目的への転用,反復的な利用などが心配になります。他の転用がしにくい利用であれば,心情的に許諾しやすくなります。)
- 利用する著作物を提供・提示する範囲はどこまでか(学校の教育活動も地域社会と連携して進められる場面が増えており,地域社会に向けた情報発信も奨励されています。作者の立場で考えると,その著作物が無制限に(世界中に向けて)発信されるのか,学校内の閉じられた範囲に向けて発信されるのかには大きな違いがあり,許諾しやすいかしにくいかに影響する場合もあります。)
- 許諾の対価(使用料)はどの程度払えるのか(著作物の利用許諾に係る契約は「私契約」なので,その条件は当事者が交渉して決めることになります。)
作者の気持ちは様々なので「了解を得る方法」を法律などで限定的に定めることは困難です。技術の進歩や経済のグローバル化などの社会の変化に応じて関係者が話し合うことを通じ,著作者の権利を尊重しつつ,より円滑に利用できる(簡便に了解が得られる)方法を開発していくことが大切です。
例外規定(権利制限規定)が適用できない場合,著作物の種類によっては著作権の集中管理が進んでいるものもあるため,著作権等管理事業者に連絡することにより事務的な手続きにより許諾が得られる場合もあります。
著作権等管理事業者は,著作権等管理事業法の規定により,著作物を利用しようとする者に対して応諾義務を負っていますので,利用を拒むことはできません(通常,使用料規程に定められた額の使用料を支払うことが必要です)。
著作権(複製権,上演権・演奏権,公衆送信権などの財産権)については,権利が存続する期間(保護期間)が定められています。
著作権が存続している著作物を利用するために著作権者から許諾を得ようとしたにもかかわらず,著作権者の所在が不明で連絡が取れず,許諾が得られない場合には,文化庁長官の裁定を受けてその著作物を利用することができます。その仕組みをまとめると のとおりです。
教育活動の過程では,日本人が創作した著作物だけでなく,外国人が創作した著作物を利用する場合もあります。著作権に関する国際条約により,外国人の著作物であっても自国民の著作物と同様の条件で保護することになっており,それらの国際条約には多くの国々が加盟していますので,私たちが目にすることができる外国人の著作物のほとんどについて,日本国内で利用する際には日本人と同様の権利が認められることになります。
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