音楽の演奏を発表する

音楽の演奏を発表する
この事例のねらい

音楽などの作品を自分の部屋で楽しむ場合と,大勢の人に見せたり聞かせたりする場合とでは,作者への配慮の度合いが異なるということについて考える。

音楽の演奏を発表する
  • 教師・児童(生徒)の発問・発言例
    • 先生

      確かに,プロの演奏家や歌手によるコンサートやリサイタルでは,音楽を演奏することについて作者の了解を得る契約が結ばれているようだね。

    • 学生

      ドーム施設でのコンサートで何万人も集まると,主催者はきっともうかるね。

    • 学生

      でも,会場の準備や広告にお金がかかると思うよ。

    • 学生

      そのための練習もきっと何日間もするんだろう。

    • 学生

      作品があるからコンサートができるわけなので,収益の一部は作者にも払わないとね。

    • 学生

      今度の市民祭りでマーチングバンド部が演奏しながら大通りを行進するんだけど,学校の行事じゃないから合唱祭とは違うのかな。

    • 学生

      プロみたいって言ってたけど,市民祭りで行進するなんて,テレビのニュースにも映るんじゃないの?

思考を深めるためのヒント(アドバイス)

  • 音楽作品や文芸作品は,自分自身が聞いたり読んだりして楽しむことができるが,それを演奏したり朗読したりして大勢の人に聞かせて楽しませることもできる。
    教育課程は児童生徒一人一人の学びのためのプログラム(計画)であり,学校行事もその一部であるが,多くの人と喜びや感動を共有すること(そのために練習すること)も教育課程の実施に欠かせない。
  • 演奏や歌唱などが上手にできれば聴衆に感動を呼ぶことになるが,うまくできなくても作品のよさを表現しようとする演者の気持ちを伝えることはできる。失敗してもそれが作品の価値を傷つけるわけではない。
  • 大勢の人に聞かせるために音楽を演奏することは,コンサートと似ているということに気づかせたい(プロの場合,どうしているのだろうか)。
  • 「学校の行事だから」と「作者の財産的権利」とのバランスを考えさせたい。
  • 世の中の様々なものの流通にはどのようなコストがかかっているか,ということに気づかせたい。

討論などによって気づかせたいポイント

  • コンサートを開催する場合,実際にどうなっているのか調べるには,信頼できるWebサイトを探す。
  • 許諾を得る必要がない「例外」もあるが,そこにこだわりすぎると,「作者や作品への敬意・尊重」という目的を見失いかねない(例外にあてはまる場合しか使えないというような誤解を生まないようにすることが先決)。

先生のためのメモ(著作権の視点)

大勢の人に聞かせるために音楽を演奏する際,原則として著作権者から演奏の許諾を得ることが必要ですが,営利を目的としない,聴衆から鑑賞の対価を受けない,演奏者などに報酬が支払われないという要件を満たしていれば例外的に著作権者の許諾を得る必要がありません(営利を目的としない上演等)。

文化祭や合唱祭のほか,音楽の授業での合唱・合奏でも,上記の例外規定は適用されます(文化祭や合唱祭のための練習の場面では,そもそも「大勢の人に聞かせること」を目的としていないといえる可能性もあります)。

音楽の演奏のほか,演劇脚本の上演,映画の上映,物語の読み聞かせ(口述)についても,上記の例外規定は適用されます。

上記の例外規定を適用することができるのは,上演演奏上映口述という無形利用(複製行為を伴わない利用)なので,楽譜や脚本をコピー(複製)する場合には,他の例外規定が適用されるかどうかを検討する必要があります。

例外規定のいろいろ (該当条文は2024年時点のもの)
私的使用のための複製 第30条
付随対象著作物の利用 第30条の2
検討の過程における利用 第30条の3
著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用 第30条の4
図書館等における複製等 第31条
引用 第32条
教科用図書等への掲載 第33条
教科用図書代替教材への掲載等 第33条の2
教科用拡大図書等の作成のための複製等 第33条の3
学校教育番組の放送等 第34条
学校その他の教育機関における複製等 第35条
試験問題としての複製等 第36条
視覚障害者等のための複製等 第37条
聴覚障害者等のための複製等 第37条の2
営利を目的としない上演等 第38条
時事問題に関する論説の転載等 第39条
公開の演説等の利用 第40条
時事の事件の報道のための利用 第41条
裁判手続等における複製等 第41条の2
立法又は行政の目的のための内部資料としての複製等 第42条
審査等の手続における複製等 第42条の2
行政機関情報公開法等による開示のための利用 第42条の3
公文書管理法等による保存等のための利用 第42条の4
国立国会図書館法によるインターネット資料及びオンライン資料の収集のための複製 第43条
放送事業者等による一時的固定 第44条
美術の著作物等の原作品の所有者による展示 第45条
公開の美術の著作物等の利用 第46条
美術の著作物等の展示に伴う複製等 第47条
美術の著作物等の譲渡等の申出に伴う複製等 第47条の2
プログラムの著作物の複製物の所有者による複製等 第47条の3
電子計算機における著作物の利用に付随する利用等 第47条の4
電子計算機による情報処理及びその結果の提供に付随する軽微利用等 第47条の5
翻訳,翻案等による利用 第47条の6
複製権の制限により作成された複製物の譲渡 第47条の7

合唱祭で児童生徒が楽器を演奏したり歌を歌ったりした場合,児童生徒が実演家となり,著作隣接権を持つことになります。マーチングバンド部が市民祭りで演奏しながら大通りを行進した場合も同様です。

児童生徒やマーチングバンド部が音楽を演奏している様子を第三者が録音や録画をしようとする場合,その第三者は音楽の著作権者に対して著作物(楽曲)の複製の許諾を求めると同時に,児童生徒やマーチングバンド部員に対して実演(演奏や歌唱)の録音・録画の許諾を求める(児童生徒が権利者となり,他者に許諾をすることができる)ことになります。

先生のためのメモ(著作権の視点)(共通編)

作品を「利用する」とは,著作権制度では の行為をすることを指します。

これらの行為をする場合には,原則として作者の許諾を得る必要があります。

著作権者本人と簡単に連絡がとれない場合,
①出版社などそのコンテンツを提供している会社に手紙を書いたり電話をかけたりして,その作品を利用したいという希望を伝えてもらう
②その作品の分野(漫画,写真,音楽,文芸作品など)ごとの作家団体に連絡する(その団体が作家に代わって許諾してくれる場合もある。
③Webサイトを通じて提供されているコンテンツの中には,「一定条件を満たす場合には,了解を得るための連絡をすることなく利用しても構わない」という意思で提供されているものがあるので,それぞれのWebサイトの利用規定などを調べる
④SNSを利用している作者であれば,ダイレクトメッセージなどでコンタクトをとってみる
などの方法があります。

著作物の利用について許諾を得るために作者(著作権者)と個別に交渉する際には,以下のような点をあらかじめ考えておきましょう。

  • 利用したい行為(複製,演奏,公衆送信など)は何なのか(「あれもしたい,これもしたい」と幅広い希望を出すと,作者の立場では一般的には簡単に許諾したくないと考えるのは自然です。いろいろな利用が想定されているのであれば「あれもしたい,これもしたい」という希望を提示してもよいでしょうが,「どこまで利用するかは分からないけれど,とりあえず」という状況であれば,利用方法を限定して許諾を求める方が,許諾を得やすいでしょう。)
  • デジタル媒体で利用するのか,アナログ媒体で利用するのか(作者の立場から考えると,許諾した場合,他の目的への転用,反復的な利用などが心配になります。他の転用がしにくい利用であれば,心情的に許諾しやすくなります。)
  • 利用する著作物を提供・提示する範囲はどこまでか(学校の教育活動も地域社会と連携して進められる場面が増えており,地域社会に向けた情報発信も奨励されています。作者の立場で考えると,その著作物が無制限に(世界中に向けて)発信されるのか,学校内の閉じられた範囲に向けて発信されるのかには大きな違いがあり,許諾しやすいかしにくいかに影響する場合もあります。)
  • 許諾の対価(使用料)はどの程度払えるのか(著作物の利用許諾に係る契約は「私契約」なので,その条件は当事者が交渉して決めることになります。)

作者の気持ちは様々なので「了解を得る方法」を法律などで限定的に定めることは困難です。技術の進歩や経済のグローバル化などの社会の変化に応じて関係者が話し合うことを通じ,著作者の権利を尊重しつつ,より円滑に利用できる(簡便に了解が得られる)方法を開発していくことが大切です。

例外規定(権利制限規定)が適用できない場合,著作物の種類によっては著作権の集中管理が進んでいるものもあるため,著作権等管理事業者に連絡することにより事務的な手続きにより許諾が得られる場合もあります。
著作権等管理事業者は,著作権等管理事業法の規定により,著作物を利用しようとする者に対して応諾義務を負っていますので,利用を拒むことはできません(通常,使用料規程に定められた額の使用料を支払うことが必要です)。

著作権(複製権,上演権・演奏権,公衆送信権などの財産権)については,権利が存続する期間(保護期間)が定められています。

著作権が存続している著作物を利用するために著作権者から許諾を得ようとしたにもかかわらず,著作権者の所在が不明で連絡が取れず,許諾が得られない場合には,文化庁長官の裁定を受けてその著作物を利用することができます。その仕組みをまとめると のとおりです。

例外規定のいろいろ (該当条文は2024年時点のもの)
私的使用のための複製 第30条
付随対象著作物の利用 第30条の2
検討の過程における利用 第30条の3
著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用 第30条の4
図書館等における複製等 第31条
引用 第32条
教科用図書等への掲載 第33条
教科用図書代替教材への掲載等 第33条の2
教科用拡大図書等の作成のための複製等 第33条の3
学校教育番組の放送等 第34条
学校その他の教育機関における複製等 第35条
試験問題としての複製等 第36条
視覚障害者等のための複製等 第37条
聴覚障害者等のための複製等 第37条の2
営利を目的としない上演等 第38条
時事問題に関する論説の転載等 第39条
公開の演説等の利用 第40条
時事の事件の報道のための利用 第41条
裁判手続等における複製等 第41条の2
立法又は行政の目的のための内部資料としての複製等 第42条
審査等の手続における複製等 第42条の2
行政機関情報公開法等による開示のための利用 第42条の3
公文書管理法等による保存等のための利用 第42条の4
国立国会図書館法によるインターネット資料及びオンライン資料の収集のための複製 第43条
放送事業者等による一時的固定 第44条
美術の著作物等の原作品の所有者による展示 第45条
公開の美術の著作物等の利用 第46条
美術の著作物等の展示に伴う複製等 第47条
美術の著作物等の譲渡等の申出に伴う複製等 第47条の2
プログラムの著作物の複製物の所有者による複製等 第47条の3
電子計算機における著作物の利用に付随する利用等 第47条の4
電子計算機による情報処理及びその結果の提供に付随する軽微利用等 第47条の5
翻訳,翻案等による利用 第47条の6
複製権の制限により作成された複製物の譲渡 第47条の7

教育活動の過程では,日本人が創作した著作物だけでなく,外国人が創作した著作物を利用する場合もあります。著作権に関する国際条約により,外国人の著作物であっても自国民の著作物と同様の条件で保護することになっており,それらの国際条約には多くの国々が加盟していますので,私たちが目にすることができる外国人の著作物のほとんどについて,日本国内で利用する際には日本人と同様の権利が認められることになります。

関連事例