良かれと思って書き直し
作品には作者の思いが込められているので,上手か下手かにかかわらず,作者の気持ちに反した改変を行ってはならない。作品に表された人格の尊重について考える。
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教師・児童(生徒)の発問・発言例
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クラスの発表会のポスターなんだから,クラスみんなの意見でデザインを決めようよ。
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だったら初めからそう言ってよ。
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そうだよ。何も条件を付けずにお願いして,あとからほかの人が描き直すのはおかしいよ。
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思考を深めるためのヒント(アドバイス)
絵や文章などで表現をする場合,作者は「こうしたい」「こうすればもっと良くなるかも」などといった考えを持ちながら自分なりの工夫をしている。上手か下手かは見る人の感じ方により様々であるし,相対的なものであるともいえる。分かりにくいとか下手だと言って,表現されたものの価値が否定されるものではない。
討論などによって気づかせたいポイント
- この事例では,どんな経緯で下書きの作成を依頼したのだろうか。
- 世の中のポスターなどのグラフィックデザインが作成される場合には,どんなやり取りがなされているのだろうか。
- 「みんなの意見でデザインを決める」というのであれば,どうすればよかったのか。
- 良かれと思って犬の部分を消したのに,何が悪かったのだろうか。
先生のためのメモ(著作権の視点)
著作物の著作者は,自分が創作した作品について意に反した改変を受けない権利(同一性保持権)を有しています。
ポスター用の絵画であれば,作者が重要と考えている要素を削除するような行為は著作者人格権の侵害に当たります。
文章の表現であれば,ストーリーや論理を変更するような行為は著作者人格権の侵害になり得ます。
この事例のような場合だけでなく,教員が児童生徒の作品を添削するような行為も,同一性保持権の侵害になる可能性はあります。
一般的には,児童生徒と教員との関係性から,明らかな誤りを修正するためなど,適切な知識や技能を身に付けるなどの観点に立った指導であるとして黙示の了解があると考えることも可能ですが,教員だから改変が当然に許容されるというわけではないことに注意が必要です。
先生のためのメモ(著作権の視点)(共通編)
作品を「利用する」とは,著作権制度では の行為をすることを指します。
これらの行為をする場合には,原則として作者の許諾を得る必要があります。
著作権者本人と簡単に連絡がとれない場合,
①出版社などそのコンテンツを提供している会社に手紙を書いたり電話をかけたりして,その作品を利用したいという希望を伝えてもらう
②その作品の分野(漫画,写真,音楽,文芸作品など)ごとの作家団体に連絡する(その団体が作家に代わって許諾してくれる場合もある。
③Webサイトを通じて提供されているコンテンツの中には,「一定条件を満たす場合には,了解を得るための連絡をすることなく利用しても構わない」という意思で提供されているものがあるので,それぞれのWebサイトの利用規定などを調べる
④SNSを利用している作者であれば,ダイレクトメッセージなどでコンタクトをとってみる
などの方法があります。
著作物の利用について許諾を得るために作者(著作権者)と個別に交渉する際には,以下のような点をあらかじめ考えておきましょう。
- 利用したい行為(複製,演奏,公衆送信など)は何なのか(「あれもしたい,これもしたい」と幅広い希望を出すと,作者の立場では一般的には簡単に許諾したくないと考えるのは自然です。いろいろな利用が想定されているのであれば「あれもしたい,これもしたい」という希望を提示してもよいでしょうが,「どこまで利用するかは分からないけれど,とりあえず」という状況であれば,利用方法を限定して許諾を求める方が,許諾を得やすいでしょう。)
- デジタル媒体で利用するのか,アナログ媒体で利用するのか(作者の立場から考えると,許諾した場合,他の目的への転用,反復的な利用などが心配になります。他の転用がしにくい利用であれば,心情的に許諾しやすくなります。)
- 利用する著作物を提供・提示する範囲はどこまでか(学校の教育活動も地域社会と連携して進められる場面が増えており,地域社会に向けた情報発信も奨励されています。作者の立場で考えると,その著作物が無制限に(世界中に向けて)発信されるのか,学校内の閉じられた範囲に向けて発信されるのかには大きな違いがあり,許諾しやすいかしにくいかに影響する場合もあります。)
- 許諾の対価(使用料)はどの程度払えるのか(著作物の利用許諾に係る契約は「私契約」なので,その条件は当事者が交渉して決めることになります。)
作者の気持ちは様々なので「了解を得る方法」を法律などで限定的に定めることは困難です。技術の進歩や経済のグローバル化などの社会の変化に応じて関係者が話し合うことを通じ,著作者の権利を尊重しつつ,より円滑に利用できる(簡便に了解が得られる)方法を開発していくことが大切です。
例外規定(権利制限規定)が適用できない場合,著作物の種類によっては著作権の集中管理が進んでいるものもあるため,著作権等管理事業者に連絡することにより事務的な手続きにより許諾が得られる場合もあります。
著作権等管理事業者は,著作権等管理事業法の規定により,著作物を利用しようとする者に対して応諾義務を負っていますので,利用を拒むことはできません(通常,使用料規程に定められた額の使用料を支払うことが必要です)。
著作権(複製権,上演権・演奏権,公衆送信権などの財産権)については,権利が存続する期間(保護期間)が定められています。
著作権が存続している著作物を利用するために著作権者から許諾を得ようとしたにもかかわらず,著作権者の所在が不明で連絡が取れず,許諾が得られない場合には,文化庁長官の裁定を受けてその著作物を利用することができます。その仕組みをまとめると のとおりです。
教育活動の過程では,日本人が創作した著作物だけでなく,外国人が創作した著作物を利用する場合もあります。著作権に関する国際条約により,外国人の著作物であっても自国民の著作物と同様の条件で保護することになっており,それらの国際条約には多くの国々が加盟していますので,私たちが目にすることができる外国人の著作物のほとんどについて,日本国内で利用する際には日本人と同様の権利が認められることになります。
関連事例
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これは真似だろうか?
課題を提出したり作品を作成する際,児童生徒の表現が既存の作品(他の児童生徒の作品や書籍・Webサイト等で発表されている作品など)に似ている場合,その行為が他者の作品を真似たことになるのかどうかについて考える。
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君の作品,いいね
どんな創作物でも,その作品には作者の思いや工夫が込められている。無形のものの価値について気づき,それを利用(借用)したいときにはどうすべきなのかについて考える。
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創作してみよう(作曲)
創作活動の苦労やすばらしさに気づく。<br>音楽の創作の場合には,既存の旋律を参考にすることが多い。創作活動は第三者に向けて発表することを前提としているため,他人の著作物を利用するときに何に注意する必要があるのかについて考える。
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創作してみよう(造形)
創作活動においては,既存の作品を参考にすることが多い。創作活動は第三者に向けて発表することを前提としているため,他人の著作物を利用するときに何に注意する必要があるのかについて考える。