君の作品,いいね

君の作品,いいね
この事例のねらい

どんな創作物でも,その作品には作者の思いや工夫が込められている。無形のものの価値について気づき,それを利用(借用)したいときにはどうすべきなのかについて考える。

君の作品,いいね
  • 教師・児童(生徒)の発問・発言例
    • 先生

      どうして友達が撮った写真を使わせてもらおうと思ったの?

    • 学生

      上手だから。

    • 先生

      「上手」って?

    • 学生

      撮り方を工夫していて,分かりやすくなっていると思う。

    • 先生

      友達がいいって言ってくれたら構わないけど,君の写真にも個性があるんだから,自分のまとめには自分が撮った写真を使おう(笑)

    • 学生

      自分で撮った写真と図鑑に載っている写真を比べると,全体と部分の違いがよく分かりそうだ。コピーして貼り付けようかな。

    • 学生

      図鑑の絵や写真をコピーするのはまずいんじゃないの?

    • 先生

      友達の写真のときに「使ってもいい?」と聞いたのと同じじゃないの?

思考を深めるためのヒント(アドバイス)

  • 創作に伴う達成感を味わわせることに配意したい。
  • 自他の作品の違いや他者の作品のよさに気づけるようにしたい。
  • 表現の工夫に価値があることに気づかせたい。
  • 価値あるものを借用する際に,相手に敬意を払うことが大切だということに気づかせたい。
  • 「もし,黙って勝手に使ったら相手がどう思うかについて,考えてみよう」
    「もし,相手が快諾してくれなかったら,それにはどんな理由や事情があるのか想像してみよう」
    「もし,Bさんの作品をAさんが使わせてほしいと言ってきたら,Bさんはどう反応するか考えてみよう」
    などの問いかけも思考を促すために有効。

討論などによって気づかせたいポイント

  • 人の作品を見て「いいね」「面白い」「役に立ちそう」「感動した」と感じたとすれば,そのこと自体で「自分がその作品に価値を認めた」ということ。
  • 「いいかダメか」という二項対立的な単純な結論ではなく,「どんな条件だったらOKか」という話し合いによって納得解を探し,当事者間で合意することの重要性に気づかせたい。
  • 法やきまりのように全体を対象とするルールのほかに,当事者間の合意や約束を守って相手を尊重することも,秩序を保つ手段の一つであることに気づかせたい。

先生のためのメモ(著作権の視点)

著作権とは,とかくプロの作家がもつ権利と考えられがちですが,児童生徒の作品にも,それぞれの児童生徒の思いが込められ表現上の工夫がなされており,著作権が認められます。

プロの作品が商業ベースで流通する場面では,著作物使用料(利用に係る許諾の対価)がかかる場合が多いことが想像されますが,著作権の行使に常に対価が発生するわけではありません。
複製や公衆送信などの著作物の利用を許諾するか否かが基本で,許諾する場合の条件として著作物使用料のような対価が付随する場合がある(商業的な作品の場合,それが伴うことが多い)ということです。
児童生徒の作品をクラスの友人が使いたいという場面であれば,対価を考えることはまずありませんが,著作権者である児童生徒がその作品を使っていいかどうかを判断できる権利はあります。

同級生の作品について「よくできている」と感じ,それを使いたいと考えたとすれば,その作品の価値を自分が認めたことに気づかせ,そのことを著作権者である同級生にどう伝えればよいかを考えさせることが著作権教育です。

「学校その他の教育機関における複製等」や「引用」などの例外規定が適用できる可能性はありますが,このような場面では,著作権者が同じ場(教室など)にいることも利点と考え,原則に従った思考を促してみることも有効です。

先生のためのメモ(著作権の視点)(共通編)

作品を「利用する」とは,著作権制度では の行為をすることを指します。

これらの行為をする場合には,原則として作者の許諾を得る必要があります。

著作権者本人と簡単に連絡がとれない場合,
①出版社などそのコンテンツを提供している会社に手紙を書いたり電話をかけたりして,その作品を利用したいという希望を伝えてもらう
②その作品の分野(漫画,写真,音楽,文芸作品など)ごとの作家団体に連絡する(その団体が作家に代わって許諾してくれる場合もある。
③Webサイトを通じて提供されているコンテンツの中には,「一定条件を満たす場合には,了解を得るための連絡をすることなく利用しても構わない」という意思で提供されているものがあるので,それぞれのWebサイトの利用規定などを調べる
④SNSを利用している作者であれば,ダイレクトメッセージなどでコンタクトをとってみる
などの方法があります。

著作物の利用について許諾を得るために作者(著作権者)と個別に交渉する際には,以下のような点をあらかじめ考えておきましょう。

  • 利用したい行為(複製,演奏,公衆送信など)は何なのか(「あれもしたい,これもしたい」と幅広い希望を出すと,作者の立場では一般的には簡単に許諾したくないと考えるのは自然です。いろいろな利用が想定されているのであれば「あれもしたい,これもしたい」という希望を提示してもよいでしょうが,「どこまで利用するかは分からないけれど,とりあえず」という状況であれば,利用方法を限定して許諾を求める方が,許諾を得やすいでしょう。)
  • デジタル媒体で利用するのか,アナログ媒体で利用するのか(作者の立場から考えると,許諾した場合,他の目的への転用,反復的な利用などが心配になります。他の転用がしにくい利用であれば,心情的に許諾しやすくなります。)
  • 利用する著作物を提供・提示する範囲はどこまでか(学校の教育活動も地域社会と連携して進められる場面が増えており,地域社会に向けた情報発信も奨励されています。作者の立場で考えると,その著作物が無制限に(世界中に向けて)発信されるのか,学校内の閉じられた範囲に向けて発信されるのかには大きな違いがあり,許諾しやすいかしにくいかに影響する場合もあります。)
  • 許諾の対価(使用料)はどの程度払えるのか(著作物の利用許諾に係る契約は「私契約」なので,その条件は当事者が交渉して決めることになります。)

作者の気持ちは様々なので「了解を得る方法」を法律などで限定的に定めることは困難です。技術の進歩や経済のグローバル化などの社会の変化に応じて関係者が話し合うことを通じ,著作者の権利を尊重しつつ,より円滑に利用できる(簡便に了解が得られる)方法を開発していくことが大切です。

例外規定(権利制限規定)が適用できない場合,著作物の種類によっては著作権の集中管理が進んでいるものもあるため,著作権等管理事業者に連絡することにより事務的な手続きにより許諾が得られる場合もあります。
著作権等管理事業者は,著作権等管理事業法の規定により,著作物を利用しようとする者に対して応諾義務を負っていますので,利用を拒むことはできません(通常,使用料規程に定められた額の使用料を支払うことが必要です)。

著作権(複製権,上演権・演奏権,公衆送信権などの財産権)については,権利が存続する期間(保護期間)が定められています。

著作権が存続している著作物を利用するために著作権者から許諾を得ようとしたにもかかわらず,著作権者の所在が不明で連絡が取れず,許諾が得られない場合には,文化庁長官の裁定を受けてその著作物を利用することができます。その仕組みをまとめると のとおりです。

例外規定のいろいろ (該当条文は2024年時点のもの)
私的使用のための複製 第30条
付随対象著作物の利用 第30条の2
検討の過程における利用 第30条の3
著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用 第30条の4
図書館等における複製等 第31条
引用 第32条
教科用図書等への掲載 第33条
教科用図書代替教材への掲載等 第33条の2
教科用拡大図書等の作成のための複製等 第33条の3
学校教育番組の放送等 第34条
学校その他の教育機関における複製等 第35条
試験問題としての複製等 第36条
視覚障害者等のための複製等 第37条
聴覚障害者等のための複製等 第37条の2
営利を目的としない上演等 第38条
時事問題に関する論説の転載等 第39条
公開の演説等の利用 第40条
時事の事件の報道のための利用 第41条
裁判手続等における複製等 第41条の2
立法又は行政の目的のための内部資料としての複製等 第42条
審査等の手続における複製等 第42条の2
行政機関情報公開法等による開示のための利用 第42条の3
公文書管理法等による保存等のための利用 第42条の4
国立国会図書館法によるインターネット資料及びオンライン資料の収集のための複製 第43条
放送事業者等による一時的固定 第44条
美術の著作物等の原作品の所有者による展示 第45条
公開の美術の著作物等の利用 第46条
美術の著作物等の展示に伴う複製等 第47条
美術の著作物等の譲渡等の申出に伴う複製等 第47条の2
プログラムの著作物の複製物の所有者による複製等 第47条の3
電子計算機における著作物の利用に付随する利用等 第47条の4
電子計算機による情報処理及びその結果の提供に付随する軽微利用等 第47条の5
翻訳,翻案等による利用 第47条の6
複製権の制限により作成された複製物の譲渡 第47条の7

教育活動の過程では,日本人が創作した著作物だけでなく,外国人が創作した著作物を利用する場合もあります。著作権に関する国際条約により,外国人の著作物であっても自国民の著作物と同様の条件で保護することになっており,それらの国際条約には多くの国々が加盟していますので,私たちが目にすることができる外国人の著作物のほとんどについて,日本国内で利用する際には日本人と同様の権利が認められることになります。

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