作者から利用の許諾を得る

作者から利用の許諾を得る
この事例のねらい

著作権は,とかく「やってはいけない」「禁止されている」という規制的な文脈で児童生徒に伝えられがちだが,利用が法律で禁じられているわけではないので,了解をもらうことを前提に,どうすれば気持ちよく了解がもらえるか,どうすれば効率的に利用できるようになるかを考える。

作者から利用の許諾を得る
  • 教師・児童(生徒)の発問・発言例
    • 先生

      友達の作品ではなく,アニメ,コミック,小説,ドラマなどから一部分だけ使いたい場合はどうかな?

    • 学生

      自分一人がコピーしたからって売り上げが減ることはないんじゃないの?

    • 学生

      一部分しか使わないんだから問題ないよ。

    • 先生

      友達なら了解をとるけれど,有名な作品なら了解をとる必要がないってこと?

    • 学生

      了解をもらうにはお金がかかるんじゃないの?

    • 学生

      有名な作品ならお金がかかるのは当たり前だよ。

    • 学生

      有名な人なら別に儲けているんじゃないの?

    • 学生

      コピーしたりすると,その儲けに響くことになるのかもしれない。

    • 先生

      作者の連絡先は個人情報だからなかなか手に入らないけれど,出版社やレコード会社に手掛かりはないかな。

    • 学生

      出版社も作者から了解を得ているんだから作者の連絡先は知っているはずだね。

    • 学生

      個人情報だから教えてはくれないよ。

    • 学生

      教えてくれなくても,私たちの希望を作者に伝えてもらうよう頼んでみることはできるかも。

    • 学生

      SNSのダイレクトメッセージで作者に私たちの希望を伝える方法もありじゃない?

    • 学生

      たくさんの作品を使いたい場合には手間がかかるね。

    • 学生

      実際の世の中ではどうしてるんだろう?

思考を深めるためのヒント(アドバイス)

  • 友達が相手であれば「契約」を結ぶこと(許諾を得ること)の抵抗も低いので,児童生徒同士で試させるのも意義がある。
  • 児童生徒の社会が広がる場合には,面識のない人とコミュニケーションさせることも考えられる。
  • 自分の考えを相手に受け止めてもらうには,相手の状況を想像できるようになることが大切。
  • なぜ「契約するのか」(許諾を得るのか)の意味を考えられるようにしたい(「法律で決まっているから」という発想を避けたい。むしろ,「なぜ法律で定められているのか」という方向に意識が向くようにしたい)。
  • 相手の気持ちや事情は様々であり,状況に応じて多様なケースを想像できるようになることが大切。
    例えば,作品を商業ベースで流通させることを生業としている人と収益よりその作品が広く流通することを重要視している人,売り出し中でとにかく注目されることを期待している人とすでに大御所になっている人,情報の拡散を希望している人と作品の流通をコントロールしたいと考えている人…など。
  • 「払えないから無断で利用してもよい」という考え方はどこが変なのか,考えてみるのもよい。
    みんなが払わないと言い始めると,自分が好きなその作家やアーティストが困る事態になることが想像できるか。
  • 「お金がかかる」という発想が出た場合,それはどこで誰が決めているのかについて考えさせたい。
  • どのように作者の了解を得るのか、その方法について法的な決まりはない。
    メディアや技術を活用したり,作家の団体に問い合わせたりするなど,様々なアイディアを凝らすようにしたい。
    その上で,情報化が進み,かつ,個人情報の適切な管理が求められる時代における合理的な仕組みの在り方を考えられるようになるとよい(発達段階に応じて)。
  • 同じ分野の作者が集まって,了解を求める窓口を一元化している取組がある(著作権等管理事業)。
    児童生徒がさらに興味を持った場合には,このような取組について調べることも意義がある。

討論などによって気づかせたいポイント

単に「使ってもよい」というだけの漠然とした了解ではなく,紙に印刷するのか,何部作成するのか,電子媒体で保存するのか,インターネットでも利用するのか,有償で提供するのか(売るのか,貸すのか),継続的な利用の場合,いつまで利用するのか,加工するのかそのまま利用するのか,了解に当たって条件(作品の使用料(いわゆる「印税」)の支払など)はあるのかなど,自分が行いたいことをできるだけ具体的に想像し,話し合うと思考が深まる。

先生のためのメモ(著作権の視点)

了解(許諾)を得るということは「契約」の一つです。
日本の民法では,「契約自由の原則」の一つとして「方式の自由」があり,当事者間で「申込み」と「承諾」があれば口頭(契約書を作成しない)の契約も有効です。しかし,著作物の利用に関する契約については,合意すべき事項が多様なため「そこまで許諾したつもりはなかった」というトラブルが生じがちなので,文書で合意をしておくことが望ましいとされています。

「契約の自由」の中には「内容の自由」もあり,どのような条件で許諾するかも当事者の交渉に委ねられており,著作物の利用条件や許諾の条件を交渉することも法的に可能です。

作品によっては,著作権等管理事業者によって著作権が管理されている場合があります。
作者自身が著作権を管理している場合には,相手(利用者)の顔を見ながら著作物使用料の額を高めに設定したり,相手によっては許諾しなかったりすることもあり得ます(逆に,児童生徒から利用許諾があった場合,無償で許諾する例も少なからず見られます)が,著作権等管理事業者が著作権を管理している場合,許諾の申入れがあった場合にそれを拒否することができないため,利用者にとっては許諾を得られないリスクが減るというメリットがあります。
著作権等管理事業者は作者との管理委託契約によって,利用者から著作物使用料を受け取って作者に分配しなければならず,そのための使用料規程を定めています。

先生のためのメモ(著作権の視点)(共通編)

作品を「利用する」とは,著作権制度では の行為をすることを指します。

これらの行為をする場合には,原則として作者の許諾を得る必要があります。

著作権者本人と簡単に連絡がとれない場合,
①出版社などそのコンテンツを提供している会社に手紙を書いたり電話をかけたりして,その作品を利用したいという希望を伝えてもらう
②その作品の分野(漫画,写真,音楽,文芸作品など)ごとの作家団体に連絡する(その団体が作家に代わって許諾してくれる場合もある。
③Webサイトを通じて提供されているコンテンツの中には,「一定条件を満たす場合には,了解を得るための連絡をすることなく利用しても構わない」という意思で提供されているものがあるので,それぞれのWebサイトの利用規定などを調べる
④SNSを利用している作者であれば,ダイレクトメッセージなどでコンタクトをとってみる
などの方法があります。

著作物の利用について許諾を得るために作者(著作権者)と個別に交渉する際には,以下のような点をあらかじめ考えておきましょう。

  • 利用したい行為(複製,演奏,公衆送信など)は何なのか(「あれもしたい,これもしたい」と幅広い希望を出すと,作者の立場では一般的には簡単に許諾したくないと考えるのは自然です。いろいろな利用が想定されているのであれば「あれもしたい,これもしたい」という希望を提示してもよいでしょうが,「どこまで利用するかは分からないけれど,とりあえず」という状況であれば,利用方法を限定して許諾を求める方が,許諾を得やすいでしょう。)
  • デジタル媒体で利用するのか,アナログ媒体で利用するのか(作者の立場から考えると,許諾した場合,他の目的への転用,反復的な利用などが心配になります。他の転用がしにくい利用であれば,心情的に許諾しやすくなります。)
  • 利用する著作物を提供・提示する範囲はどこまでか(学校の教育活動も地域社会と連携して進められる場面が増えており,地域社会に向けた情報発信も奨励されています。作者の立場で考えると,その著作物が無制限に(世界中に向けて)発信されるのか,学校内の閉じられた範囲に向けて発信されるのかには大きな違いがあり,許諾しやすいかしにくいかに影響する場合もあります。)
  • 許諾の対価(使用料)はどの程度払えるのか(著作物の利用許諾に係る契約は「私契約」なので,その条件は当事者が交渉して決めることになります。)

作者の気持ちは様々なので「了解を得る方法」を法律などで限定的に定めることは困難です。技術の進歩や経済のグローバル化などの社会の変化に応じて関係者が話し合うことを通じ,著作者の権利を尊重しつつ,より円滑に利用できる(簡便に了解が得られる)方法を開発していくことが大切です。

例外規定(権利制限規定)が適用できない場合,著作物の種類によっては著作権の集中管理が進んでいるものもあるため,著作権等管理事業者に連絡することにより事務的な手続きにより許諾が得られる場合もあります。
著作権等管理事業者は,著作権等管理事業法の規定により,著作物を利用しようとする者に対して応諾義務を負っていますので,利用を拒むことはできません(通常,使用料規程に定められた額の使用料を支払うことが必要です)。

著作権(複製権,上演権・演奏権,公衆送信権などの財産権)については,権利が存続する期間(保護期間)が定められています。

著作権が存続している著作物を利用するために著作権者から許諾を得ようとしたにもかかわらず,著作権者の所在が不明で連絡が取れず,許諾が得られない場合には,文化庁長官の裁定を受けてその著作物を利用することができます。その仕組みをまとめると のとおりです。

例外規定のいろいろ (該当条文は2024年時点のもの)
私的使用のための複製 第30条
付随対象著作物の利用 第30条の2
検討の過程における利用 第30条の3
著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用 第30条の4
図書館等における複製等 第31条
引用 第32条
教科用図書等への掲載 第33条
教科用図書代替教材への掲載等 第33条の2
教科用拡大図書等の作成のための複製等 第33条の3
学校教育番組の放送等 第34条
学校その他の教育機関における複製等 第35条
試験問題としての複製等 第36条
視覚障害者等のための複製等 第37条
聴覚障害者等のための複製等 第37条の2
営利を目的としない上演等 第38条
時事問題に関する論説の転載等 第39条
公開の演説等の利用 第40条
時事の事件の報道のための利用 第41条
裁判手続等における複製等 第41条の2
立法又は行政の目的のための内部資料としての複製等 第42条
審査等の手続における複製等 第42条の2
行政機関情報公開法等による開示のための利用 第42条の3
公文書管理法等による保存等のための利用 第42条の4
国立国会図書館法によるインターネット資料及びオンライン資料の収集のための複製 第43条
放送事業者等による一時的固定 第44条
美術の著作物等の原作品の所有者による展示 第45条
公開の美術の著作物等の利用 第46条
美術の著作物等の展示に伴う複製等 第47条
美術の著作物等の譲渡等の申出に伴う複製等 第47条の2
プログラムの著作物の複製物の所有者による複製等 第47条の3
電子計算機における著作物の利用に付随する利用等 第47条の4
電子計算機による情報処理及びその結果の提供に付随する軽微利用等 第47条の5
翻訳,翻案等による利用 第47条の6
複製権の制限により作成された複製物の譲渡 第47条の7

教育活動の過程では,日本人が創作した著作物だけでなく,外国人が創作した著作物を利用する場合もあります。著作権に関する国際条約により,外国人の著作物であっても自国民の著作物と同様の条件で保護することになっており,それらの国際条約には多くの国々が加盟していますので,私たちが目にすることができる外国人の著作物のほとんどについて,日本国内で利用する際には日本人と同様の権利が認められることになります。

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