共有フォルダを使う
授業での学習活動の過程で自分が作成した資料や収集した情報を共有フォルダに保存し,教員間や児童生徒間で共有して交流活動を行うことがあるが,そのような機能の便利さと,保存される作品に関わる第三者への影響について考える。
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教師・児童(生徒)の発問・発言例
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先生,インターネットを利用した共有フォルダって,みんなでいろいろな画像や音楽が共有できて便利だね。
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一度保存しておくと,次に必要な時にも一から探さなくてもいいし,他の人の手間も省けるね。
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すごく便利な機能だけど,勝手に保存していいのかしら。
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インターネットを使ってデータが共有できることは便利だけれど,何か気になるようですね。
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ありがたいってことは誰かが不利益を被っていない?
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インターネットを使ったWebサイトでも有償コンテンツのサイトは勝手にコピーしてはまずいよね。
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そもそも会員にならなくてはログインできないでしょ。
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地上波テレビの場合とどう違うのかな。
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別にコピーしたものを売ってもうけようとしているわけではないんだけど…。
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私のタブレットに保存しているだけなんだけど…。
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作った人もみんなに見てもらいたいに決まっていると思うんだけど…。
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もし,デジタル・コンテンツのように簡単にコピーしたり加工したりすることができないとしたら,どんな利用方法になるか考えてみよう。
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思考を深めるためのヒント(アドバイス)
- デジタルデータであればまずコピーが簡単であり,さらに反復的に利用しても画質や音質が劣化しない。このような行為が今や誰にでもできる時代になってきたことが,作品を作る者にとっては大きな不安(誰がどこでどのように利用しているかをコントロールできない)につながっていることに気づかせたい。
- 私たちが簡単に使えるからといって,それらを作った人が簡単に作れたわけではないので,それらを利用するときには作者の気持ちを考えるようにしたい。
- 学校や学級で利用している授業管理システムの共有フォルダではなく,児童生徒自身の個人レベルのオンラインストレージサービスについても考えてみるとよりよい。
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地上波テレビの場合,テレビ受信機とレコーダーさえあれば録画できるが,それでも無償の番組だからといって何でも勝手にコピーして保存したり共有したりするのは問題があるとされている。
どこに問題があるのか,どうすればそれが解消されるのかについて考えられるとよい。 - 勉強の過程でよく分かったとか,趣味の活動の上で楽しくなったとか,便利になったとかの気持ちを感じることができたのであれば,知らず知らずのうちにその情報(作品など)の価値を享受できたということ。このことを自覚できるようにしたい。
- 価値あるものを利用(複製や公衆送信など)したいとき,一般的にはその提供者に許諾を得なければならないが,すべての場合でそうしなければならないわけではない。無断で自由に利用できる場合もあるが,その場合でも作者や作品への敬意が必要なくなるわけではないということに気づかせたい。
【もし,デジタル・コンテンツのように簡単にコピーしたり加工したりすることができないとしたら】
- 売っているものを(何度も)買う
- 手書きで書き写す
- オリジナルのものを一から作る
- あきらめる
- その他
(「コピーすることについて許諾をもらう」という考えが出てくるかどうか)
討論などによって気づかせたいポイント
民放局の地上波テレビ番組の場合,受信者側はコンテンツの対価を払わずに番組を視聴できるが,番組の制作関係者は無償でそれを制作しているわけではなく,スポンサー料によって制作費をまかなっている。
インターネットを通じてアクセスできる様々なコンテンツについても,有償配信サイト以外のサイトでは,誰かがそのコストを負担しているからこそ受信者がスムーズにアクセスできている。その負担者は広告主であったり,サイト運営者自身であったりするが,利用者が無償でアクセスできるとしても,コンテンツそのものが無価値であるわけではない。
デジタル化された情報の便利さに気づくとともに,作品のよさを手軽に享受できることを当たり前と思わない(作った人の思いや工夫を考える)ことが重視される。
先生のためのメモ(著作権の視点)
児童生徒が調べた内容を共有フォルダに保存して交流活動を行う学習は,学校の授業の過程で行われる著作物の公衆送信として,例外規定(第35条)が適用される可能性が高いですが,「必要と認められる限度」「著作権者の利益を不当に害しない」などの条件があるため,「学校の教育活動だから,無制限に共有フォルダに保存しても問題ない」と拡大解釈するのは適切ではありません。
デジタル技術の開発・普及によって,コンテンツの利用が飛躍的に便利になってきました。かつては,コンテンツの利用は専門的な技術や設備を持った者にしかできませんでしたが,今日では誰でも容易にできるようになっています。
このような技術の発展による恩恵を多くの人が享受できることは望ましいのですが,そこで流通するコンテンツなどの情報の価値がなくなったわけではありません。
よいコンテンツであればあるほど,その制作・開発のコストは誰かがどこかで負担しています。もし大勢のユーザーが勝手に複製したり,その複製物をばらまいたり,インターネットを通じて拡散したりするとそのコストが全く回収できなくなり,そうなれば,よいコンテンツができなくなってしまうかもしれません。このことは,収益を目的としていないコンテンツ開発者であっても同様です。使用料の徴収は考えていないとしても,自分の作品に価値を認めてくれるユーザーがいることを何らかの形で知ることができれば,作品の改善をしたり続編の制作をしたりするインセンティブになると考えられます。しかし,勝手に使われっぱなしだと,そのような意欲がわきにくくなるかもしれません。
児童生徒の発達段階に応じて,技術の開発とコンテンツの創作・流通のバランスをいかに図っていくかを考えることも著作権教育です。
既存の著作物などの資料をインターネットを通じて記録媒体に保存することについては,原則として著作権者から複製や公衆送信の許諾を得ることが必要ですが,この事例のように調べ学習の過程で児童生徒が入手した著作物を共有フォルダに保存して交流学習を行う活動については,例外的に著作権者の許諾を得る必要がない場合があります。(学校その他の教育機関における複製等)
先生のためのメモ(著作権の視点)(共通編)
作品を「利用する」とは,著作権制度では の行為をすることを指します。
これらの行為をする場合には,原則として作者の許諾を得る必要があります。
著作権者本人と簡単に連絡がとれない場合,
①出版社などそのコンテンツを提供している会社に手紙を書いたり電話をかけたりして,その作品を利用したいという希望を伝えてもらう
②その作品の分野(漫画,写真,音楽,文芸作品など)ごとの作家団体に連絡する(その団体が作家に代わって許諾してくれる場合もある。
③Webサイトを通じて提供されているコンテンツの中には,「一定条件を満たす場合には,了解を得るための連絡をすることなく利用しても構わない」という意思で提供されているものがあるので,それぞれのWebサイトの利用規定などを調べる
④SNSを利用している作者であれば,ダイレクトメッセージなどでコンタクトをとってみる
などの方法があります。
著作物の利用について許諾を得るために作者(著作権者)と個別に交渉する際には,以下のような点をあらかじめ考えておきましょう。
- 利用したい行為(複製,演奏,公衆送信など)は何なのか(「あれもしたい,これもしたい」と幅広い希望を出すと,作者の立場では一般的には簡単に許諾したくないと考えるのは自然です。いろいろな利用が想定されているのであれば「あれもしたい,これもしたい」という希望を提示してもよいでしょうが,「どこまで利用するかは分からないけれど,とりあえず」という状況であれば,利用方法を限定して許諾を求める方が,許諾を得やすいでしょう。)
- デジタル媒体で利用するのか,アナログ媒体で利用するのか(作者の立場から考えると,許諾した場合,他の目的への転用,反復的な利用などが心配になります。他の転用がしにくい利用であれば,心情的に許諾しやすくなります。)
- 利用する著作物を提供・提示する範囲はどこまでか(学校の教育活動も地域社会と連携して進められる場面が増えており,地域社会に向けた情報発信も奨励されています。作者の立場で考えると,その著作物が無制限に(世界中に向けて)発信されるのか,学校内の閉じられた範囲に向けて発信されるのかには大きな違いがあり,許諾しやすいかしにくいかに影響する場合もあります。)
- 許諾の対価(使用料)はどの程度払えるのか(著作物の利用許諾に係る契約は「私契約」なので,その条件は当事者が交渉して決めることになります。)
作者の気持ちは様々なので「了解を得る方法」を法律などで限定的に定めることは困難です。技術の進歩や経済のグローバル化などの社会の変化に応じて関係者が話し合うことを通じ,著作者の権利を尊重しつつ,より円滑に利用できる(簡便に了解が得られる)方法を開発していくことが大切です。
例外規定(権利制限規定)が適用できない場合,著作物の種類によっては著作権の集中管理が進んでいるものもあるため,著作権等管理事業者に連絡することにより事務的な手続きにより許諾が得られる場合もあります。
著作権等管理事業者は,著作権等管理事業法の規定により,著作物を利用しようとする者に対して応諾義務を負っていますので,利用を拒むことはできません(通常,使用料規程に定められた額の使用料を支払うことが必要です)。
著作権(複製権,上演権・演奏権,公衆送信権などの財産権)については,権利が存続する期間(保護期間)が定められています。
著作権が存続している著作物を利用するために著作権者から許諾を得ようとしたにもかかわらず,著作権者の所在が不明で連絡が取れず,許諾が得られない場合には,文化庁長官の裁定を受けてその著作物を利用することができます。その仕組みをまとめると のとおりです。
教育活動の過程では,日本人が創作した著作物だけでなく,外国人が創作した著作物を利用する場合もあります。著作権に関する国際条約により,外国人の著作物であっても自国民の著作物と同様の条件で保護することになっており,それらの国際条約には多くの国々が加盟していますので,私たちが目にすることができる外国人の著作物のほとんどについて,日本国内で利用する際には日本人と同様の権利が認められることになります。
関連事例
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これは真似だろうか?
課題を提出したり作品を作成する際,児童生徒の表現が既存の作品(他の児童生徒の作品や書籍・Webサイト等で発表されている作品など)に似ている場合,その行為が他者の作品を真似たことになるのかどうかについて考える。
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調べ学習の成果を発表資料にしよう
夏休み等の自由研究や各教科における調べ学習を行う際,児童生徒による様々な取材活動が行われるが,そのような学習の過程では,先人が遺した文化や研究の成果を活かすことも多い。既に存在している文化的所産と自らの学びを区別して考える。
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引用するってどういう行為
調べたことや考えたことをまとめる際,既存の著作物を利用することは多い。その場合,どのような「引用」が学びの作法として適しているかについて考える。
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身近な複製(スマートフォンでの撮影)
スマートフォンを使って写真を撮影したり録画をしたりすることも多いが,著作物などを撮る場合の原則と例外について考える。
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出典ってどう書けばいいの
「引用」をする場合や「授業の過程でのコピー」をする場合,出典表記(出所の明示)をするが,どのように書けばよいのか考える。
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良かれと思って書き直し
作品には作者の思いが込められているので,上手か下手かにかかわらず,作者の気持ちに反した改変を行ってはならない。作品に表された人格の尊重について考える。